げんなりしていた頭と体にスイッチが入る
ちいさな避暑 |
この夏はとろけそうなほどの暑さだった。暑くて、あつくて、アツクテ……。思い立って大人の夏休みの終わりに、ささやかな避暑に出かけた。「近くて、自然がいっぱいで、涼しげなところ」。即座に浮かんだのは、やっぱり裏磐梯だった。
あえて計画は立てず、気の向くままにのんびり過ごし、ミントグリーンの空気を胸いっぱい吸って、さわやかで軽やかになれたらと思った。泊まるところだけ確保して、寄り道をしながら向かい、裏磐梯に着いたのは午後4時近かった。車から降りると半袖では涼しすぎて、カーディガンをはおった。
途中、立ち寄った表磐梯は少し歩くと汗が吹き出し、しっかり冷房が効いた古民家カフェで冷たいものを飲んで、涼まずにはいられなかった。表と裏では気温が3度ほど違うらしいが、時間差もあるのか、風が吹いているわけでもないのに体感温度がかなり違った。
ホテルの部屋ではすぐ冷房を切った。それでもカーディガンを着ていてちょうどだった。夜も熟睡できて、翌朝にはげんなりしていた体も、停止していた思考回路にもスイッチが入ったように思えた。
時間をたっぷりかけて朝食をとったあと、五色沼に出かけた。長袖のシャツでちょうどいい。普段は毘沙門沼から柳沼まで約3.6�をトレッキングするが、ほかにも行きたい所があったので、毘沙門沼周辺をいくらか散策するだけにした。
毘沙門沼、赤沼、みどろ沼、竜沼、弁天沼、瑠璃沼、青沼、柳沼と巡るトレッキングは、季節や時間、天気によって表情が変わり、何度歩いても楽しい。途中、休憩したり、写 真を撮ったりしても一時間ほどで、道もなだらかなのでみんなで歩ける。
今年は例年になく、クマの出没が多いという。7月には毘沙門沼のボート乗り場付近で女性を襲い、クマは沼を泳いで逃げたそうだ。ビジターセンターではクマの目撃情報を発信していて、訪ねた前日にもクマの親子が目撃された。毘沙門沼そばの売店前では無料で「クマよけの鈴」が貸し出されていた。
そのあと、いつものようにヒロのお菓子屋さんに寄って「花豆もんぶらん」をテイクアウト。甘さ控えめのやさしい味で、大好きなケーキのひとつ。車に紅茶セットを積んできたので、気に入った場所でティータイムにできる。
裏磐梯高原ホテルで開かれている牧野富太郎の植物画展も眺めた。独学で植物を研究し、発見・命名もして、日本の植物分類学の基礎を築いた牧野富太郎(1862-1958)。その植物画は原寸大で描写 した全形図と、分類学的に重要な器官を描いた部分図や拡大図、解剖図などで構成されたものや、メモが書き留められている写 生図などがある。
興味深いのは、牧野富太郎が植物調査に歩いた全国地図で、それを見るといわきにも来ている。高原ホテルのラウンジからの磐梯山と弥六沼のなんともいい風景を眺めながら「いわきのどの辺りを歩いたのだろう」と想像した。
帰り道、前々から欲しかった会津塗のブローチを探すため、会津山塩を作っている大塩裏磐梯裏磐梯温泉を通 って会津若松に向かった。「会津一望の丘」辺りから暑さが戻ってきて、引き返したくなった。
「行きつけの宿をつくって、毎年、裏磐梯で少し暑さを避けるのもいいね」。車中でそんな話をして盛り上がった。せっかく遠回りしたけれど暑さに負けて、ブローチ探しのお楽しみは次に取っておいた。
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