015回 雪の日(2005.2.28)

大越 章子

 

画・松本 令子

窓のそとの降り積もる景色

雪の日

 2月16日の朝、目が覚めると部屋の空気はしんめりしていた。「雪がふっている」。カーテンをあけると、やっぱり外は一面まっ白だった。
 仙台で学生生活を過ごしてから雪の気配がわかる。真夜中や明け方から降り始めた雪は、寝ている間に空気を変え、雑音も消してしまうらしい。雪の朝はとても静かだ。
 もうずいぶん前になるが、大学の共通1次試験を福島市で受けた。いまで言うセンター試験で、当時、福島県内の受験生は福島市で受験することになっていた。試験前日の午後には福島市内のホテルに入り、気休めに参考書を広げて夕食までの時間を過ごしていた。 
 夕方、部屋の電話が鳴った。フロントからで、ロビーに人が訪ねて来ているという。急いでロビーに行くと、医大生の従兄弟が立っていた。「たぶん、ここに泊まると思って」と、抱えていた袋を手渡された。中にはたくさんのおやつと夜食が入っていた。
 数十分、ロビーで話をして、従兄弟は帰って行った。「大学生活ってなかなかいいよ。自由だし、好きなことができる。絶対、大学生になれよ」。帰り際にそう言った。玄関まで見送ると、外はかなり雪が降っていて、従兄弟の後ろ姿はすーっとその雪の中に消えていった。 
 それから1カ月後、大学の後期試験を終えた従兄弟は1人、スキーをつけて吾妻山に登り、若年性の心筋梗塞を起こして山道に倒れ、亡くなった。浪人までして目指した大学には入れなかったけれど、とりあえず合格したことを伝えることはできなかった。

 子どものころは外に出て降る雪をつかまえたり、積もった雪に足跡をつけたり、雪だるまを作ったりするのが好きだった。いつのころからか、雪の降る日は暖かな部屋で、スープでも煮込みながらのんびり過ごすのがよくなった。窓から降り続く雪を眺めていると、あの後ろ姿を思い出す。
 

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