

だれかが声を上げることで変化が生まれる
グレタさんの思い |
1カ月半ぐらい前に開かれた福島県立博物館の会議で「このまま温暖化が進めば、2100年ぐらいには日本の砂浜がなくなってしまう」という話を聞いた。後日、改めて聞いてみると、これまでも少しずつ影響は出ていたが、2030年ぐらいから顕著となり、最悪の場合、2100年ぐらいに九割の砂浜が消滅すると予測されているという。
もちろん現状では予測の幅がかなりある。しかし、いまでも砂浜の幅は狭く、温暖化による海面上昇の影響だけを考慮しても、危機的状況にある。当たり前のように眺めている、いわきの60kmの海岸線の砂浜も30年、50年後には、いったいどうなっているのかと思う。
その少し前に、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの気候変動を巡る1年間の旅を追ったドキュメンタリー番組がBS朝日で放送された。イギリスのBBCが制作した番組で、グレタさんはいろんな土地を訪ねて実情にふれ、学者たちと対話を重ねて理解を深め、各地の国際会議で演説し、素顔も垣間見られた。
この100年で半分に減ったカナダのアサバスカ氷河、2018年の山火事で9割の家屋が焼失したアフリカ・カリフォルニア州のパラダイス村、何千年も続けてきたトナカイとの伝統的な暮らしが脅かされつつある北極圏の先住民の生活…。
旅の映像とともに気候変動がもたらした状況の詳しい解説がされ、例えば、氷河の減少には気候変動のほかに山火事も起因し、すべてはつながっているのがよくわかる。気温の上昇に伴って木を食べるキクイムシが多く森林に住みつき、枯れ木が増えて大きな山火事が起き、その灰が飛んできて氷河を黒くし、太陽光を吸収し熱を蓄積して解けやすくなる、というように。
気温が高くなるほど水蒸気量は増え、より激しい雨が降り、これまでにない豪雨被害がさまざまな国で増えている。熱波も発生し、その影響でいのちを落とした人々も少なくない。アフリカでは砂漠化が進み、住めなくなった地域の人々は移動を余儀なくされ、それが衝突を生んでもいる。
現状を目の当たりにし、グレタさんは「この世界は持続可能な社会ではない。あなたたちはまだ、問題に目を向けず表面的なことしか気にしていないが、気候変動の先にあるのはそういうことの結果。いますぐ、きょうから二酸化炭素の排出量を削減しなければならないという認識が必要」と、世界の政治家や大企業家たちに訴える。
先月、国連の気候変動に関する政府パネル(IPCC)が報告書を公表し、地球全体で広範囲にわたる急速な変化が起きていて、温暖化が人間の活動の影響であることは疑う余地がない、と初めて断定した。深刻化する気候危機が今後も続くと予測し、まったなしの対策が求められる。
小さいころ、グレタさんは「はだかの王さま」のおはなしが大好きだったという。王さまは裸なのに、人々は服を着ているかのようにふるまう。そのなかで1人の子どもが「王さまは裸だ」と叫ぶ。だれかが声を上げることで変化が生まれる。グレタさんは「王さまは裸だ」と叫ぶその子どもなのだ。
IPCCの報告書では、今後も多くの化石燃料を使い続けると、今世紀末までに気温は4.4度上昇するなど事態の深刻さが増しているとしている。それでも2050年ごろまでに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすれば、一時的にパリ協定の1.5度を超えても今世紀末には1.4度に戻る可能性もあるという。
世界中の人々が気候変動を共通理解することで、未来はつくられる。
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