186回 WISH(2024.1.15)

大越 章子



画・松本 令子

願いは真摯に向き合って自分でかなえる

WISH

 

 元旦にディズニー映画「WISH」を観た。ウォルト・ディズニー・カンパニーの創立100周年を記念して作られた最新作で、長年、ディズニー映画が描き続けてきた「願いの力」をテーマに、100年の歴史がつめ込まれている。
 ものがたりの舞台は、地中海沿岸に浮かぶ架空の王国ロサス。夢をかなえてくれるという、素晴らしいマグニフィコ王に願いを捧げるため、世界中から人々が集まってきた。そこに暮らす主人公のアーシャは、17歳の明るく前向きな女の子。ある日、マグニフィコ王の意外な秘密を知ってしまう。
 「いつか王が願いをかなえてくれる」と、人々は自分の一番大切な願いをマグニフィコ王に捧げてきたが、かなえられる願いは王が自身のためにもなると思った、ほんの一握りの人の願いだけ。野心的な願いや王を少しでも脅かすような願いはもちろん、ほとんどの願いはかなえられず、城のなかに永遠に封じ込められる。
 王に願いを捧げると、人々は自分の願いを忘れ、こころにぽっかり穴があいてしまって、何を失ったのかもわからなくなる。「かなえる気持ちがないなら、本人に返すべき」と、アーシャは訴えるが、傲慢なマグニフィコ王はそれが王国の維持に必要だと信じている。
 思い悩んだアーシャは森の奥で夜空の星に願う。すると不思議な力を持つ願い星「スター」が現れ、その助けを借りながら7人の友達といっしょに、みんなの願いを取り戻すためにマグニフィコ王に立ち向かう。
 夢を追い求めることは大変で、日々の研鑽や努力は言うまでもなく、必要でさまざま試行錯誤があり、思い悩み、かなえられない願いは苦しみにもなる。それでも自分の願いは、だれかの力をあてにするのではなく、真摯に向き合って自分でかなえる――「WISH」はそう励まし勇気づける。
 100周年の記念作品なので、これまでのさまざまなディズニーアニメ作品へのオマージュが散りばめられている。例えば、アーシャの7人の友達は「白雪姫」の七人のこびとと重なる。友達それぞれの名前の頭文字も七人のこびとと同じというように徹底していて、ストーリーを追いながら、そういう出会いがたくさんある。

 映画を観た帰り道、助手席でバッグからスマートフォンを取り出した家族が「能登半島で大きな地震があったみたい」と言うので、カーナビのワンセグをつけた。すると大津波警報が出されていて、NHKの女性アナウンサーが「高台に逃げてください」「いますぐ避難!いますぐ避難! 東日本大震災を思い出してください」などと強い口調で必死に繰り返し、避難を呼びかけていた。
 ちょうど海岸沿いを走っていて、いろんな思いが込み上げ、ハンドルを握りながら「早く逃げて!」と、こころのなかで叫んでいた。帰宅しても、つけっぱなしにしていたテレビからは女性アナウンサーが懸命に避難を呼びかけ続けた。
 能登半島の先端の珠洲市を震源とするマグニチュード7・6、最大震度7の地震。家屋は倒壊し道路も寸断され、海岸線が隆起し、津波に襲われ、火災や土砂崩れも起き、液状化も多発している。日に日に被害の状況が明らかになってきているが、地震発生から1週間が過ぎても、被害の全容はつかめていない。
 「WISH」に登場する願い星のスターは希望や光、イマジネーションを具現がしたエネルギーの球体。ミッキーマウスからインスピレーションを得たという。表情や好奇心旺盛でいたずら好きな性格を見れば、それはすぐわかる。
 困難な時を乗り越えるために必要なものを象徴しているスターは、アーシャにあきらめないことを思い出させ、希望を持ち続けられるように助けてくれる。2024年は願い星スターを道標にスタートした。

 

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