ストーリーテラーが物語を語っているよう
Secret Garden |
少し前に放送された「題名のない音楽会」で、新しいクラシック音楽をテーマに、チェリストの宮田大さんとヴァイオリニストの服部百音さんが、それぞれ思う曲を2曲ずつ選んで演奏した。宮田さんが選んだ一曲は、ラルフ・ラヴランドが作曲した「Song From A Secret Garden」だった。
ノルウェー出身のラルフは三十年前、アイルランド出身のヴァイオリニストのフィンヌーラ・シェリーと「Secret Garden」を結成し、CD「Song From A Secret Garden」でデビューした。そのCDに同名の「Song From A Secret Garden」が入っている。
Secret Gardenの音楽は、クラシックを縦糸にアイルランドの音楽を横糸に紡ぐタペストリーのようで、曲によって縦糸が太くなったり細くなったりする、と評されている。そのなかで「Song From A Secret Garden」は、ストーリーテラーが土地に伝わる物語を語っているような雰囲気がある。
宮田さんは「いたってシンプルな曲。シンプルが一周まわって新しい。明るい曲なのか、暗い曲なのかわからず、聴いている人の感情次第で明るくも暗くも聞こえる」と、新しいクラシックと思う理由を説明し、弦楽アンサンブルとともにチェロを奏でた。
一音一音にさまざまな感情をこめて色彩豊かに表現。チェロは人間の声に一番近い楽器なので、より物語の世界に誘う。聞く側がタイトルに引きずられてしまうのか、その物語はもちろんバーネットの『秘密の花園』で、秘密の庭の扉がまず浮かんでくる。
主人公のメアリーが扉の鍵を見つけて庭に足を踏み入れ、動物と話せる少年ディコンと病弱で車いす生活をしているコリンと3人で、荒れ果てた秘密の庭に種を播き、球根を植え、樹木を剪定してなど美しい庭によみがえらせる。そして魔法のような素晴らしいことが起きる。
宮田さんのチェロのメロディを聴いていたら映画「THE SECRET GARDEN」(秘密の花園)が見たくなって、後日、DVDを見た。フランシス・F・コッポラが製作総指揮し、1993年に作られた映画で、イギリスの中世の面影が残るヨークシャー地方で撮影された。
イギリス植民地時代のインドでのメアリーの暮らし、どこまでも続くヨークシャーの田園風景、叔父さまの邸宅である城、それから10年間も閉ざされたままだった花園……。メアリーたちの手で息を吹き返した庭は木々の緑に覆われ、色とりどりの花が咲き、水が流れ、小鳥がさえずり、風が吹きわたる。
立派な庭園ではない。手づくりのナチュラルなイングリッシュガーデンで、みんなのこころを温かくする。
いとこたちの影響で小学生1年生の時に『小公女』と『小公子』を読み、バーネットはすてきな物語を書く作家だと思った。小学生のある時期まで、祖母は孫たちが長い休みに入ると一緒に平のまちに出かけ、本屋でそれぞれに好きな本を1冊選ばせ、それから、どこかで美味しいものを食べて、ということをしてくれていた。
好きな本を1冊というのはなかなか難しく、選ぶまでに結構、時間がかかったように思う。時には1軒だけでは用が足らず、何軒か回ったこともあった。バーネットの本というのと、題名に心ひかれ『ひみつの花園』は小学2年生の夏休みに買ってもらった。
それから数十年経って、バーネットの波瀾に富んだ人生にふれ、50代を過ごしたロンドンの南のケント州にあるメイサム・ホールの庭でコマドリと出合って、幼い時に親しんだ高い壁の庭を思い出し、それが『秘密の花園』の執筆につながったことを知った。
『秘密の花園』は出版される前年、バーネットが大人向けの雑誌に「つむじまがりのメアリーさん」として発表し、題名を変えて出版したという。物語にはマザーグースの同名のわらべ歌が出てくる。主人公のメアリー像はそこから生まれた。
宮田さんのチェロの演奏からぐるり巡って、マザーグースにたどり着いた。
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