

日々のすきまに音楽の深い森へ入り込む
| 365日のクラシック音楽 |
2026年のはじまりから『イヤー・オブ・ワンダー 365日のクラシック音楽』(みすず書房)をそばに置いている。イギリスのブロードキャスターで、ヴァイオリニストでもあるクレメンシー・バートン=ヒルさんの著書(翻訳は後藤菜緒子さん)。毎日1曲ずつ、その日に合うクラシック音楽を選んで紹介している。
例えば、1月1日はバッハの「ロ短調ミサ曲 BWV232」第3曲サンクトゥス。「この5分ほどの音楽は心を喜びで満たし、高揚させてくれる。新しい年よ、いらっしゃい。これからよろしく、というように」と綴られている。You Tubeで聴いてみると、確かにそう聴こえる。
1月20日はシューベルトの「音楽に寄せて」。友人のフランス・フォン・ショーバーの詩に曲をつけた。
気高い芸術よ、幾度のわびしいときに、
人生の容赦ない輪にがんじがらめにされたときに、
おまえはわたしの心に温かい愛を灯し、
より良い世界へ連れていってくれた。
バートンさんは、はじめの四行を示し「まさに、これに尽きる。」と、だけ書いている。
前書きによると、この本はクラシック音楽の1000年(中世を含む)の深みにわけ入って、240人のさまざまな時代のいろんな作曲家に出会い、音楽に存在する生きることの神秘にふれられるという。
2月4日はフローレンス・プライスの「ファンタジー・ネグレ」。プライスは1887年生まれの初のアフリカ系アメリカ人女性作曲家。偏見や差別を受けながらも、名門のニューイングランド音楽院で学び、四曲の交響曲をはじめ多くの作品をつくり、シカゴ交響楽団などで演奏された。
プライスといえば、ウィーン・フィルの今年のニューイヤーコンサートで「レインボー・ワルツ」が演奏された。女性作曲家の作品はもう1曲、19世紀後半に女性オーケストラを結成し、指揮を務めるとともにヴァイオリニストとしても活動した、ヨゼフィーネ・ヴァインリッヒのポルカ・マズルカ「セイレーンの歌」作品13も奏された。
女性作曲家の作品は昨年のニューイヤーコンサートで、19世紀にウィーンで活躍したコンスタンツェ・ガイガーの「フェルディナンド・ワルツ」が、初めてプログラムに入れられた。今年は2曲に増え、さらにヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「女性の真価」も演奏された。1870年に法的な女性の権利の確立を未来の裁判官や弁護士に促すために捧げた曲と言われている。
そしてプログラムの最後は、プロイセンとの戦争でウィーンを包んでいた暗い空気を一掃しようと、ヨーゼフ・シュトラウスが作曲したワルツ「平和の棕櫚の葉」で締めくくられた。ヨーロッパでは棕櫚は平和のシンボル。年の初めに平和の願いを音に包んで世界中に届けた。
さて本に戻って、2月14日。バートンさんは迷ったあげく、バッハの「2本のヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調BWV1043」第二楽章ラルゴ・マ・ノン・タントを選んだ。「バッハのドッペル(協奏曲)」と親しまれ「まさに究極の音楽による対話で、世の中でもっとも美しい音楽」と称賛している。
音楽は時空を超えて、遙か彼方へ連れて行ってくれる。本を開いて、1日のなかでほんのわずかでも音楽の深い森に入り込み、散歩したり、深呼吸したり、うたた寝をしたりしてその神秘を感じたい。
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