007回 天使とバラの隠れ家(2004.5.31)

大越 章子

 

画・松本 令子

おもちゃ箱ひっくり返したみたい

天使とバラの隠れ家

 白いドアを開けたら、バラのいい香りがしてきた。“よちよち歩き”を意味する「Baby Step」という小さなお店。朝熊節子さん(24)とお母さんの弥生さん(45)が草木台の自宅のリビングにサンルームを建て増しして、昨年10月から始めた。知る人ぞ知るの“隠れ家”的なお店で、大きな看板も出ていない。
 節子さんの家庭では6年前、お父さんの転勤でいわきに越してきて、家を建てた。節子さんはちょうど大学生で、卒業後、両親のいるいわきで一緒に生活を始め、一昨年の春、弥生さんと2人で平の新川緑地公園沿いの根守ビルにお店を出した。バラと天使をコンセプトにプレゼントに贈りたい小物・雑貨を並べ、パッチワークなどの手芸の教室も開いた。
 しかし徐々にやりたいことが増えて店が手狭になったため、場所を自宅に移した。生活と仕事の空間を一緒にするのはいやだったが、始めてみるととてもやりやすいという。弥生さんが買い集めていた家具を使って雰囲気づくりをした。
 サンルームはフレンチ・ナチュラルカントリーをイメージしたカフェ。コーヒーはこだわって紀ノ国屋のロイヤルブレンドを取り寄せ、手づくりのパウンドケーキやクッキーも出している。その奥に小物を並べたショップと、パッチワークやトールペインティングの教室になる大きなテーブルがある。
 「いわきにないもの」。そう考えて、節子さんは品物を仕入れている。眠れるハーブが中に入ったピンクの熊のぬいぐるみや写真立て、スタンド、カップ、それに布地…どれもこれもかわいらしい。上等なおもちゃ箱をひっくり返したみたいで、一つ一つに見入ってしまう。女性たちがゆっくり時を過ごし、子どもが帰ってくる時間まで遊べるような場所であってほしいという。
 みんなに秘密にしておきたい空間、私だけが知っているお店。BabyStepをそうしたいと思っている女性たちは少なくない。その方が贈るプレゼントも魅惑的だから。昼下がり、サンルームのいすに腰かけ、庭に咲く花々をレースのカーテンの間から眺めながら、天使と戯れる。ちょっと贅沢な時間。時々、そんな日があっていい。

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