545号 競馬をめぐる冒険(2025.11.15)

画 黒田征太郎

 

競馬浪漫派の矜持は単・複の馬券を買い
好きな馬だけを追いかけること

 

競馬をめぐる冒険

 TBS系列で日曜の夜9九時から放映されている「ザ・ロイヤルファミリー」を見ている。競馬を題材とした親子二代にわたる物語で、原作は早見和真。生産から育成、調教、レースというサラブレッドの生涯を長いスパンで描いている。いまさらなのだが、放って置いた原作を読んで、ストーリーを先取りしている。
 中学生の時に、寺山修司のコラムやエッセイを読んで競馬に魅せられ、ひたすら好きな馬を追いかけ続けた身としては、こういう小説が世に出て注目されることが嬉しい。
 寺山は自ら「競馬浪漫派」と称し、馬券は単勝と複勝を買ってレース中はその馬だけを見続けることを勧めた。そして、好きな馬が勝ったときには、その配当金で記念の品を買う。大きな馬券を取って背広を新調し、その馬の名前を刺繍するほどのこだわりようだった。
 学生時代のこと。府中の東京競馬場で好きな馬が勝った。帰り道にレコード店があったので、「何か記念になるものを」と思い、入った。粋がってブッカー・リトルやエリック・ドルフィーを聴いていたのに、なぜそれを選んだのかはわからない。おそらく、ジャズ好きの高知出身の友だちが「あのLPはとてもいい。気に入って聴いている」と言っていたのが、耳に残っていたのだろう。配当金でそのレコードを買った。
オスカー・ピーターソン・トリオの「プリーズ・リクエスト」。ジャズのスタンダードナンバーを集めたクラブでの実況録音盤で、軽快にしかもしっとりと聴かせる。なかでもレイ・ブラウン(ウッドベース)の弓弾きから始まる「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」が一番のお気に入り。「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」もなかなかいい。いまも棚からレコードを出して、気が向いたときに聴いている。
「ザ・ロイヤルファミリー」には、現在の競馬システムに対する批判もある。生産からレースまでがエスカレーターのように企画化され、巨大な競馬産業が出現した。それによって日高地方の小さなサラブレッド生産牧場が廃業に追い込まれている。弱小牧場からダービー馬が生まれることができにくくなり、シンザンやオグリキャップのような夢をみることは、遥か遠くに行ってしまった。それが残念だし、悲しい。
寺山修司が好きだったハクセツとジョセツの姉妹は、千葉県富里町のの扶桑牧場で生まれた。年を重ねると真っ白になる芦毛。岡部幸雄騎手が手綱を執り、ファンをわくわくさせた。ずっと牧場に行きたいと思っていたのだが機会がなく、やっと訪ねたときには姉妹とも亡くなっていて、その娘のダンセツとレイセツがいた。やはり、真っ白い馬体をしていた。血を繋ぐブラッドスポーツには終わりがない。 

                                        (安竜 昌弘)

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