

怪我をしてからこの1年
日焼け止めとリップだけ
| すっぴん返上 |
昨年の夏、慌ただしくしているなかで、4コマ漫画のようなことが起きて、家のなかで滑って転んでしまった。滑った瞬間に「これは大ごとになる」と感じ、倒れながらクッションになるようなものを探したが、手の届くところに何も見あたらず、そのまま身体の右側を床にぶつけた。
頭からかなり出血し、右目はものが二重に見え、右側の手首や足にも痛みがあった。タオルに包んだ保冷剤をあてているうちに出血は止まり、右目も普通に見えるようになり、痛みはあったけれど手足もちゃんと動いて、スムーズに歩くことができた。
それでも、どこかで診てもらった方がいいと思い、その日は土曜日で、それもお昼近くだったので、医療センターの救急外来に行った。レントゲンとCT画像を前に医師から「頭は切れただけだから、ホッチキスで留めれば大丈夫。問題なのは右の頬骨。骨折していて、これは手術した方がいいと思う」と言われ、月曜日に外来で形成外科を受診する予約をし、痛み止めの薬を受け取った。
月曜日、形成外科で診てもらうと「頬骨の骨折は10日ほどで骨がくっついてしまうから、早く手術した方がいい」との説明で、木曜日に再び来院して翌週、緊急手術枠で手術を受けることになった。その際、「顔に傷は残りますか」と一番の心配を尋ねた。「右目下の縁と右歯茎の上からメスを入れるので傷はほぼわからない」とのことで、ちょっと安心した。
頭のホッチキスは髪で隠れ、顔や手足のひどい青あざもマスクと服で見えず、痛みもほとんどなかったため、入院するまでの1週間は、いつもと変わらず取材に歩いた。滑って倒れるまでの数秒の感覚を身体が覚えていて、時折、その瞬間を思い出したが「手術してよくなろう」と自分を励ました。
手術は全身麻酔で2時間ほどかかった。「もしかしたら」と言われていた鼻の骨は折れてなくて、頬骨を2カ所つなげた。数日、右目はつむったままで、ラジオや音楽を聞きながらほぼ眠って過ごした。眠っても眠っても眠くて「この部屋は眠くなる仕掛けがされているのですか」と、看護師さんに尋ねたほどだった。不思議なほど痛みはなく、痛み止めの薬は1度も飲まずに済んだ。
食事はお粥など軟らかなもの、プリンやゼリー、それに桃をずいぶん食べた。目の充血は徐々に引け、それが回復のバロメーターに思えた。顔の青あざが消えるまで入院しているつもりだったが待ちきれず、10日間ほどで退院した。その後、顔の青あざは黄色くなって首まで移動し、鎖骨付近でいつの間にか消えた。
仕事はお盆明けから再開した。でもすぐに疲れてしまって思うようにならず、午前中での早退が続いた。食事の際には、なんとなく口元が気になって、いつもティシュをそばに置いた。退院前に主治医から「傷はわからず、表面的には怪我する前と変わらない。あとは自分との闘いだね」と言われていた。違和感にとらわれると、医師のその言葉が頭をよぎった。
心がけたのは無理をしないこと。少しずつよくなるのだから、やれるようになったらやればいい、と考えるようにした。いつのまにか怪我する前と同じように動けるようになり、右頬の違和感を意識せずに過ごすことが増えた。体調や天候で、なんとなくつらい日もあるが、いまは右上の歯茎辺りに手術の名残を感じるぐらいになっている。
怪我してからこの1年、家族に「失礼じゃないの」と言われながら、日焼け止めと色つきリップクリームだけで、化粧はせずに過ごしてきた。マスクを利用すると、すっぴん生活はとても楽で、肌にもよさそうに思え、気に入っていた。8月中旬で通院を終え、それを機に、すっぴんを返上することにした。化粧を再開したもののまだ慣れない。玄関で靴を履いてから化粧をしていないことに気づき、急いでスリッパに履き替え、鏡の前に座ることが多い。しばらく、こういうことが続くだろう。
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