003回 たからもの探し(2004.1.31)

大越 章子

 

画・松本 令子

幸せ気分でお気に入りと出会える

たからもの探し

 たからもの探しが好きだ。商店街や路地を歩いていても、お店に入っても、美術館の常設展を見ていても、山登りをしていても、本を読んでいても、たぶん無意識にたからもの探しをしている。
 “たからもの”は高価なものというわけではなくて、不意に偶然そこで出会える好みのものだ。ただ、たからもの探しには1つ条件がある。ゆったりと時間が流れていること。自分でその時間のコントロールをしないと、出会っていても気づかないまま通 り過ぎてしまう。
 いわき・ら・ら・ミュウにあるキンダーボックスはたからもの探しの絶好の場所だ。気をつけて一つ一つ眺めていると、必ずお気に入りのものに出会える。それはペンダントにもなる小さな小さなハーモニカだったり、いろんな木で作られたコマのセットだったり。期待を裏切らない、意表をついたものが必ず見つかる。
 店主の高木武廣さん(56)はキディランドに10年勤めたあと、小名浜の名店街にキンダーボックスをオープンした。お手本にしたのは、東京・代官山にある子どもの生活提案をしているスイートリトルスタジオ。それをいわき風にアレンジし、一貫して木のおもちゃにこだわっている。
 木のおもちゃは握った時の感触が自然で、やさしくて、それに安全。オープン2年後ぐらいから、お客さんの要望に応えてドイツやスイスなどのおもちゃを置くようになった。
 武廣さんの奥さんで店長の待子さん(53)はおもちゃコンサルタントでもある。子どもの年齢に合ったおもちゃ選びのアドバイスをしている。
 一昨年秋から、店はら・ら・ミュウに出している1軒だけにし、その店の一角にはいまも高木さん夫妻のポリシーが息づいている。武廣さんはお客さんである赤ちゃんのことを知るために、2年前から放送大学の学生になり、乳幼児の心理学などを学んでいる。
 赤ちゃんや子どもでなくても、ゆっくりゆっくり眺めていると、気になるものと遭遇する。そして、どうしようか迷う時もある。その時は迷いに迷う時間をも楽しむ。家に帰って来て、時々、それを思い浮かべ、幸せ気分になるようだったら本物。もう一度、キンダーボックスに出かける。そうやって、お気に入りはたからものになる。

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