仕事始めの日に、いわき市平下神谷の小松政男さん(93)が縁起物を持って訪ねてくれた。政男さんの名刺には縁起絵師と禅画芸術師の二つの肩書きが記されていて、その縁起物は縦50cm、横1m10cmの紅白の紙に書いた「長寿の心得」だった。
国鉄職員だった小松さんは平駅(いまのいわき駅)に勤務した時、「字が下手だ」と上司に言われ、書を学び始めた。定年退職後は東京の教室に通
い、さらに禅画の世界にも足を踏み入れ、中国に出かけて勉強した。
「長寿の心得」は中国の少林寺の師が教えてくれた言葉で、小松さんは機会あるごとに友人・知人に伝えているという。「もしお迎えがきたら」という仮定のもと、
還暦(60歳) とんでもないよと追い返せ
古希(70歳) 未だ未だ早いとつっぱなせ
喜寿(77歳) せくな老楽これからよ
傘寿(80歳) なんの未だ未だ役に立つ
米寿(88歳) もう少しお米を食べてから
卒寿(90歳) 年齢に卒業はない筈よ
白寿(99歳) 百歳のお祝いが済むまでは
茶寿(108歳)未だ未だお茶が飲み足らん
皇寿(111歳)そろそろゆずろうか日本一
と、なっている。百寿(100歳)が含まれていないのは白寿に「百歳のお祝い」の言葉が登場するからで、これらは自分を励ます言葉なのだという。長寿のお祝いには120歳の「大還暦」もあって、還暦2周到達の目標もひそかに隠れている。
そして終わりに「氣(きはながく)心(こころはまるく)腹(はらはたてず)口(くちをつつしめば)命(いのちながかれ)」と書かれ「念ずれば花ひらく」と結ばれている。
上司の言葉を「育ててくれている」と素直に受けとめて始めた書が、その後の小松さんの生き方を広げ、豊かに楽しく活動的にしている。「論語」も学び、ある時期、大学で学生に教えた。学生には自ら「こんにちは」と積極的に声をかけ、履物をそろえるなど自身のうしろ姿を見せた。すると、少しずつ学生に変化が見られた。「いまの教育は教えないで育てない」と、小松さんは言う。
毎日、つけている日記には必ずその日、耳にしたいい言葉を書きとめ、そして「みなさんがしあわせでありますように」と願いも忘れない。
2020年、いい年になりますように。
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