松村栄子さんのこと 小説は「学校は丘の上にあった」で始まる。その学校は土井晩翠が校歌を作詞し、桜の樹に囲まれた古い女子高らしい。校舎は井桁の形をした鉄筋4階建て。礼法の授業があり、掃除は毎日、生徒全員でする。心覚えのある学校だった。あまりに母校に似ていた。 その小説は松村栄子さんの処女作「僕はかぐや姫」。松村さんは青少年時期をいわきで過ごした。「君たちの先輩に読書感想文で最高の賞を取った人がいるよ」と、高校の担任の先生がよく話していらしたが、その先輩が松村さんだった。1992年には「至高聖所(アパトーン)」で芥川賞を受賞している。 母校が男女共学化になる前年、松村さんにいわきの新高校生たちへのメッセージ原稿を依頼した。その際の説明が悪くて、最後の女子高生たちへのメッセージ原稿が届き、もう1本書いていただいた。間もなく「高校時代を思い出すとき、いつも『桜の森の満開の下』という言葉が浮かびます」と始まる文章が送られてきた。以来、松村さんと桜が結びついている。京都に住んでいる松村さんはこの時期、いくつもの桜の森の満開の下を歩くだろう。時には高校時代を思い出しながら。