第412号

412号
2020年4月30日
想像しよう、そうすれば           
いまはできるだけ家にいるのが大事だとわかる。

 クロード・モネの「ひなげしの咲く麦畑」が見たくて、4月17日の昼下がり、ストラスブール美術館展が開かれている、いわき市立美術館に出かけた。前日に緊急事態宣言の対象が全国に広がって、いわきでも市立美術館など公共施設が18日から休館になり、その前にと思った。 
 平日にもかかわらず来館者は思っていたより多く、普段の日常に戻って絵を楽しんでいた。「ひなげしの咲く麦畑」は、モネがジヴェルニーの同じ場所から見つめ、描いた5つの連作の1つ。1日の時間帯を変えて描かれ、異なる光と空気が記録されている。展示されていた作品は色彩 が淡く、夕暮れどきかもしれない。思いをめぐらしながら、しばらく立ち止まった。 

 日常がいつもと違ってしまって、どれくらい経つだろう。もやもやとした不安は、中国の春節のころからあった。花粉症なのでマスクは2月初めからつけ、そのころダイアモンド・プリンセス号で感染者が確認された。中旬には意識して気をつけるようになり、後半から予定されていた催しが中止され始めた。 
 いつの間にか日常が非日常の様相を呈し、原発事故が起きた時のように、地に足がついていないみたいな体のふわふわ感と、心のさわさわがあって、なんとなく落ちつかない。なにより半月、1カ月先が見えず、だれもが大きな不安を抱えている。どうしてこんなことになってしまったのか。いつになったら、いつもの日常に戻るのだろう。

 「新型コロナウイルスが12月末には中国の武漢で流行していたことを、われわれがもっと早く知り、みんなも理解していたら、いくらでも防ぐ手段はあった」。ある番組で専門家はそう話していた。明らかに防げた流行で、想像力のなさがいまを招いている、と。
 想像できれば「これは危険なことかも」と思い、出歩いたりしない。100年前に流行したスペイン風邪の時と同じに、新型コロナウイルスも「人に近づかない」ことが唯一無二の防御法で、ワクチンも薬もないなかソーシャルディスタンス(人と人との物理的な距離)を保つしかない。
 いまに至っては、新型コロナのウイルスとの闘いは長期戦になるという。正しい知識を得て、自分で考え、想像力を働かせての行動が大事になる。疲れないように心の栄養を補給しながら、油断せずにみんなで行動をひかえれば、そのうち出口の光が見えてくる。 


 特集 新型コロナウイルス

一歩間違えば医療崩壊になりかねない

 新型コロナウイルスの感染拡大により、緊急事態宣言が4月16日、全都道府県に広げられました。いわき市内では、常磐鹿島工業団地にあるエーピーアイコーポレーション(本社・東京)のいわき工場でクラスターが起きました。いわきで3例目の男性感染者の勤め先で、市内の感染者は12名になりました。いわき市の様子をさまざまな角度から伝えます。

いわき保健所長 新家利一さんのはなし

 いわき市はまだ医療崩壊になっていませんが、一歩間違えればそうなりかねないと考えておかなければならなりません。人との接触を避け、受診エチケットを守ることが自分を守ることになるのだと、その重要性を説いています。



市消防本部のはなし

 東京では、新型コロナの疑いがある患者を乗せた救急車が医療機関で受入れを断られるという問題が起きています。いわき市で救急要請があった場合はどうなっているのか、消防本部で聞きました。



「酒のいしかわ」 石川 修さんのはなし

 「酒のいしかわ」では家業であった酒屋から健康食品を扱う店へと業種を転換しています。なにが転換を決意させたのか、「おいしい“酒”は健康から」をテーマに独自商品の開発などに取り組む石川社長に話を聞きました。

マルトグループのはなし

 緊急事態宣言が発令されても、食品を扱うスーパーの売り上げが伸びているといいます。スーパーの現状と新型コロナ対策について、いわきに本社をおくマルトグループの安島誠専務に電話で取材しました。

 

 記事

トリチウム汚染水再考2

 第2回「関係者の御意見を伺う場」が、13日福島市で開かれ、12人が意見を表明しました。そのほとんどが「水蒸気、海洋放出の二者択一」に懐疑的で、風評被害増幅の懸念と放射性物質に対する情報の必要性を訴え、国の責任ある対応を求めました。
 3人の意見を紹介します。いてふれています。



福島県農業協同組合中央会会長 菅野 孝志さん

 二者択一案は遺憾で、反対したい、と言います。農業者が最も懸念するのは安全性の担保と新たな風評被害を生まないための発生防止対策であり、そのために放射能に関する正しい知識・認識を伝えてほしいと訴えていました。

ヨークベニマル社長 真船 幸夫さん

 福島県を拠点に231店舗のスーパーマーケットを営んでいるヨークベニマルの責任者として、放出水については徹底した風評防止のプログラムを準備してほしいと要望しました。放射能は目に見えないものだけに、いくら安全といっても水産物を買う客に伝わなければ風評が起こると危惧しています。わきの小さな旅です。

いわき市長 清水 敏男さん

 処理水の取り扱いは今後30年ほど影響の出かねない問題です。拙速に結論は出さず、あらゆる可能性を検討し、広く関係者、市民などに理解を得ることが重要だといいます。30、40年かかるといわれる廃炉作業には国と地元住民の信頼関係が不可欠で、信頼を裏切ることのないようにと述べました。

双葉地方町村会

 双葉地方町村会の8人の町村長がそれぞれ、汚染水の処理について意見を述べました。放出水の安全性についてのわかりやすい説明、風評被害の対策を求める声がほとんどで、賛否を明確にする町村長はだれもいませんでした。うち4人の意見を紹介します。  

  

 連載

戸惑いと嘘(46) 内山田 康
再びムナナへ(4)


いわきの地域新聞と新聞人(12) 小野 浩
片倉製糸場の光と影


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(9)コケ


ぼくの天文台2(53) 粥塚 伯正
三カ月たった、
 

 コラム

ストリートオルガン(151) 大越 章子
かあちゃん展