第413号

413号
2020年5月16日
開かれた民主主義とは、透明でなければなりません。
そこには当然、説明と話し合いが含まれています。
(アンゲラ・メルケル)

 「給付金もマスクもまだ来ないけど、車の税金は速攻で来るんだな」―。知人がFacebookでこうつぶやいた。確かに車の税金納付書は来ているが、物議を醸したアベノマスクも給付金の申込用紙も届いていない。新型コロナウイルスに苦しめられている庶民のあきれ顔が、目に浮かぶ。

 安倍内閣は、新型コロナウイルス対応で、とんちんかんなことを繰り返している。まず、オリンピック開催と習近平主席の来日にこだわって身動きが取れなくなり、後手を踏んだ。さらに、ありがたくもない布マスクの配布を強引に進め、給付金を巡っても迷走した。PCR検査の窓口や対象を絞ったやり方についても、国際社会から「数字を隠蔽している」と非難された。にもかかわらず、どさくさに紛れて検察官定年延長法案を通そうと画策する。そこにあるのは自分の身を守ることだけで、国民の姿は見えていない。

 パンデミック後の世界はどうなるのか。そうでなくてもメールやSNSなどの普及で人と人との接触が減っているのに、感染防止のための外出や対面制限などが定着していくと、いまの生活が日常へと変わっていくのだろうか。そんな、もやもやを抱えながら、精神科医の松崎博光さんを訪ねた。
 松崎さんの意見はまったく逆で、良質なものづくりに回帰し、集中型ではなく分散型の社会にすべき、というものだった。そして「10年、50年後の社会や人類の姿が見えてくる哲学に注目する必要がある」と言った。
 NHKテレビ「パンデミックが世界を変える」に出演したジャック・アタリさん(フランスの経済学者で思想家)の意見は「他者のために生きるという人間の本質に立ち戻らないといけない」というもの。歴史をみると、人類は恐怖を感じるときに大きく進化するので、いまが変えるチャンスなのだという。しかし、未来について考える力がとても乏しいうえに忘れっぽく、過去の負の遺産を嫌うために、それが取り除かれるとこれまで通りの生活に戻ってしまう。そうした弱さを持たず、すべての人が次世代の利益になるように行動すれば、それが希望になる―と自らの考えを話した。
 福島で原発事故が起こったあと、日本中の原発がすべて止まった。しかし、あれだけの大惨事が起き、いまだに苦しんでいる人たちがいるというのに、原発がなくなることはなかった。ただあのとき、わたしたちは「国の言うことはあてにならない。自分で調べて考え、行動するしかない」ということを学んだ。だから、新型コロナ禍で原発事故による放射能禍を教訓にできない国の姿が透けて見え、どうにもならないジレンマに苛まれている。それがもどかしい。
 ドイツのメルケル首相はコロナの行動制限について、自分のことばで国民に訴えた。
 「開かれた民主主義というものは、政府が政治的決断を行うとき、透明でなければなりません。そこには当然、説明と話し合いが含まれています。激しい闘いで手にした、さまざまな自由を、民主主義のなかで制限する、それは軽々しく決めるべきではなく、一時的な場合だけに限られるべきです。しかしいまは、命を救うためにどうしても必要なのです。わかってください」
 東ベルリン出身で、物理学者でもあるメルケルさん。真摯で心に響くことばだった。


 特集 長塚節と斎藤茂吉

 節と茂吉は「アララギ」の歌人で、それぞれがいわきを訪れ歌を詠んでいます。ふたりの出会いや歩んだ道と歌を紹介します。


長塚節のこと

 節は現在の茨城県常総市国生に生まれ、中学(現在の水戸第一高校)の時に歌を作り始めました。子規に師事し自然を描写する歌を作っていきます。また歌を詠むだけではなく写生文や小説も執筆しました。農業にも従事しましたが、32歳の時咽頭結核に罹り、大正4年に死去、享年35でした。

齋藤茂吉のこと

 茂吉は現在の山形県上山市金瓶に生まれましたが、東京に出て同郷出身の齋藤紀一の養子となり、精神科医になりました。一方で伊藤左千夫に入門、新しい短歌を目指しました。
 医師と歌人という二つの道を歩んだ茂吉は、昭和28年に70歳で死去しました。自ら戒名を決めていたという茂吉の骨はふるさと東京に分骨されました。

節と茂吉 いわきゆかりの地

 節と茂吉は伊藤左千夫の歌会の席で初めて会い、茂吉は3歳年上の節から大きな影響を受けました。節は療養でいわきを訪れ、歌を詠んでいます。節の死後、茂吉は妻の輝子と節のゆかりの地を巡る旅をし、勿来関で歌を詠みました。

 記事

新型コロナウイルスのこと(4)

松崎博光さんのはなし

 日本でPCR検査、抗体検査の数が少ないのはやりたくないからだ、コロナ対策も先進国から信用されてないと精神科医の松崎博光さんは言います。日本のコロナへの対応について、そしてパンデミック後世界はどうなっているのか、独自の視点で話してくれました。

いわき市の新型コロナウイルスのはなし

 いわき市では5月に入ってから、3人の新型コロナウイルス感染者が確認されました。3人とも4月にクラスターが起きた会社で感染が確認された従業員の家族です。いずれも4月16日の検査では陰性でしたが、5月に入って陽性と判明しました。新型コロナの潜伏期間、感染力などをついてふれています。



本間裕英さんのはなし

 ウイルスが体に入ってきても、血液がきれいであれば感染しにくい、と平鍛冶町の「善林庵」の本間裕英さんは話します。血液の浄化のために何を食べ何をすればいいのか、食品と対策を教えてもらいました。



いわき点描

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだ「お家にいよう」が原則。だけどちょっとだけ人が少ない公園、海岸、お城山などをウォーキング。大きないわきの小さな旅です。

 連載

戸惑いと嘘(47) 内山田 康
再びムナナへ(5)


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(10)地衣類


DAY AFTER TOMORROW(207) 日比野 克彦
まだコロナ