448号 2021年10月31日 |

あせらなくていい。歩く速さはみんな違う
いわき市四倉町のソノベミチヨさん(46)とタケルさん(19)の「ソノベさんの親子展」が11月7日まで、いわきアリオス東口ウォールギャラリーで開かれている。4年前から行われているアリオスの公募展示で、タケルさんが描いた絵や文字をミチヨさんが刺し子して縫いつけたバッグや原画が展示されている。
親子で作品を手がけるようになったのは、数年前、ミチヨさんに病が見つかり手術を受けたのがきっかけだった。気力も体力も落ちている自身に気づき「こんなんじゃだめだ」と奮い立たせ、好きな手仕事を始めた。手を動かしていると何も考えずに集中できた。
そのうち絵を描くのが好きなタケルさんに「魚の絵を描いて」と頼み、絵を布に転写し刺し子して、手づくりのシンプルなバッグに縫いつけた。ちょうど、いわき市が「魚の日」を制定したころで、タケルさんはミチヨさんの提案が気に入ると、図鑑を見ながら「フィシュアート」と言って、迷いなく一気に描く。
例えば、食卓にサンマが登場した数日後には「サンマを食べたよね。秋はサンマ、どう描いてみない」と、また「メヒカリの天ぷら、好きだよね」というように。タケルさんが提案を気に入ったかどうかはすぐわかる。
タケルさんは昨春、いわき支援学校高等部を卒業して福祉作業所に通っている。ところが「20歳は大人だから、20歳になったら福祉事業所を卒業する」と言い始めた。20歳の誕生日は来年2月。ミチヨさんはさらに1歩踏み出すための何かを模索し、その背中を「親子作品がたまったでしょう。どこかでみんなに見てもらわないと」と、知人が押した。
そんな時に偶然、ラジオでアリオスの公募展示を知り、すべり込みで申し込み、間もなく「展示しましょう」と連絡があった。3カ月後の10月初め、「ソノベさんの親子展」が始まった。展示された作品がよそゆきの顔をしているからか、それとも自身の描く姿などが動画で紹介されているからか、親子展を見に行ったタケルさんは急に恥ずかしくなって、目をふさいだ。
見つめているとバッグは額縁に思えてきて、縫いつけられたイワシやスズキ、カジキマグロ、タチウオ、タイ、サンマ、メヒカリなどがいきいきと立ち上がってくる。「あれはアートだね」。親子展を見た人にミチヨさんはそう言われた。たくさんの反応が届いている。
「歩く速さはみんな違う。一人ひとり自分のペースがあって、いい感じに歩んでいくのだから、あせらなくていい」。ソノベ親子の作品にはそんなメッセージがこめられている。
タケルさんはいま、水曜日は福祉事業所を休み、まったく違う場所でオリーブの苗木の水かけをしている。「あなたは障害があるからこっちに行きなさいではなく、こっちもあるけれどあっちもある、さてどうしようと選べるようになるといい」。ミチヨさんとタケルさんの願いだ。
特集 種まく人たち |
水戸市の郊外にある「佐川文庫」を足がかりに、市民による市民のためのまちづくりをめざした、元市長、佐川一信さんの生き方、市政運営、那珂市にある単館系ミニシアター「あまや座」などを取材し、種まく人たちを紹介する。
佐川一信さんのこと
3期10年水戸市長を務めた佐川さんは千波湖を浄化して水戸芸術館を建設、水と緑の文化都市・水戸をめざした。その生涯を紹介する。

佐川文庫理事長 佐川 千鶴さんのはなし
一信さんが亡くなって5年後の2000年、姉の佐川千鶴さんは水戸市河和田町に「佐川文庫」を開設しました。それは生前、一信さんが「僕の好きな本や音楽を集めて一般に公開したい」と語っていた夢の実現でした。千鶴さんに佐川文庫について話を聞きました。

あまや座のはなし
那珂市瓜連にミニシアターができて4年。館主である大内靖さん(40)に開館のいきさつや現状について話を聞いた。

記事 |
いわき市立美術館のあゆみ
10月24日までいわき市立美術館で開かれていた「REVISIT コレクション+アーカイブに見る美術館のキセキ」展の紹介と美術館建設の原動力になった市民ギャラリー活動の歴史をまとめた。

演出家の森新太郎さんに聞く
シェイクスピアのローマ劇の1つ「ジュリアス・シーザー」が11月にいわきアリオスで上演される。パルコ・プロデュースの芝居。シーザー暗殺とその後をめぐる男たちの陰謀や策略が渦巻く古代ローマ政治闘争を、吉田羊さんをはじめ女性だけで描く。その演出している森新太郎さんにシェイクスピア作品や「ジュリアス・シーザー」の舞台について聞いた。

連載 |
戸惑いと嘘(72) 内山田 康
幾度も越えられた無数の浜辺(4)
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(45)オミナエシ
ひとりぼっちのあいつ(26) 新妻 和之
英語授業改善共有ワークショップ
時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(14)
其の十三 城坂
ぼくの天文台 粥塚伯正余話(11)
幻影の庭
コラム |
月刊Chronicle 安竜 昌弘
「MINAMATA」のこと
映画と事実の 間にあるものを 埋めていく
新連載
いきもの係日記
①はじまり