485号 2023年5月16日 |
海底トンネルに何の意味があるのですか
福島第一原発に貯まり続けているトリチウムなどを含む汚染水の海洋放出が、夏前にも行われようとしている。沖合約1㎞の海洋放出口まで伸びる海底トンネルの掘削作業が4月26日に完了。6月末までにはすべての工事が終わる見通しだという。漁業者をはじめ国民、アジア太平洋島諸国の人たちの理解が得られていないなか、それを無視するように放出準備が着々と進んでいる。
ことしの取材は、いわきの海岸線歩きからスタートさせた。「海洋放出問題について、ごく普通の人たちの考えをじかに聞きたい」という思いからだった。ほとんどの人は「反対だよ。だって気持ち悪いもの」と言うのだが、一方で「でも国が決めたことだから流すことになるんだろう。しょうがないね」というあきらめムードが漂っていた。しかも、海洋放出の問題点をきちんと理解している人は少なく、経済産業省や東電の安全キャンペーンを鵜呑みにしている感じがした。
宇宙物理学者の池内了さん、報道写真家の大石芳野さん、小説家の高村薫さんなど七人が名前を連ねる世界平和アピール七人委員会が先ごろ、「汚染水の海洋放出を強行してはならない」との意見を表明した。かつては湯川秀樹、平塚らいてう、井上ひさしなども名前を連ねていた会で、声明文では「放射能とのやむを得ない取り組みは、拙速を避け時間をかける以外ない。保管を続け、その間に汚染水の発生量をできるだけ減少させ、固化させるなどの研究開発を一層強化することも考慮に入れるべき」と結んでいる。
その根拠として①核燃料にふれた処理水と通常運転時の排水を同時に考えることができない②体内に入ったトリチウムからのβ線はDNAを破損させる以上のエネルギーを持っている③長く核汚染に抗ってきた太平洋諸国の人々も放出しないことを求めている。流してしまえば国際的真義の問題も引き起こす―などを挙げている。
先日、オーストラリアの核問題と取り組み、太平洋島諸国の環境を守る活動をしているナタリー・ラウリーさんの話を聞いた。オーストラリアのウラン鉱山で掘られていたウランが日本に輸入され、福島で使われていた現実。それについて近くに住む先住民の女性が「ウランは輸出した先で砕くことで邪悪が広がる。福島でも邪悪が広がってしまった」と話していること、先住民が住む土地に核のごみ最終処分場が三カ所検討されたとき、女性たちが立ち上がってすべてを白紙に戻したこと、「海は命の源」という太平洋島諸国の人たちが海洋放出を強く懸念していること、などを紹介した。
そして「政府と東電がみなさんを無視し、ないがしろにする状況のなかでも、たくましく、さまざまな工夫をしながら福島で生きようとしていることを知りました。その姿に心を打たれました。ここで住もうとしている人たち、何とか暮らしを取り戻そうとしている人たち…。世界の連帯はそういうみなさんとともにあります」と力づけた。
何百億もの予算を使って完成させようとしている海底トンネル。これについて東電は「風評被害への影響を考えた」と説明している。1㎞ほど先に薄めた汚染水を流したからといって、人々の「何となく気持ちが悪い。やはりいやです」という思いが解消されるとは思えない。この、一方的で目くらましのようなやり方に、原発問題の本質がある。
特集 水郷をめぐる |
茨城天心記念美術館で開かれていた「旅するチバラキ」展(4月23日まで)に誘われ、4月29日に霞ヶ浦、利根川を中心とした水郷めぐりをした。香取神宮のある香取市の佐原、鹿島神宮の鹿嶋市、そして潮来市。106年前に船を中心に旅した画人たちの足跡を追った。
利根川と霞ヶ浦にはぐくまれた水と信仰の郷
霞ヶ浦にて
小江戸・佐原
急ぎ旅の後悔
川からの土砂で海を堰き止める
霞ヶ浦のはなし
古い街並みが残る水の都
佐原と香取神宮のこと
水運の中継地のあと水郷遊覧など観光地に
潮来のはなし
鹿島神宮のはなし
鹿島灘のはなし
記事 |
ふくしま環境フォーラム
ALPS処理水の海洋放出2
ALPS処理水の海洋放出」をテーマにする「アジアと太平洋をつなぐ ふくしま環境フォーラム」の2回目は、研究者の立場から、地質学や地下水の専門家、柴崎直明さん(福島大学共生システム理工学類教授)と一次産業の再生を研究している林薫平さん(福島大学食農学類准教授)がそれぞれの見解を話した。
柴崎 直明さんのはなし
地下水が溶け落ちた燃料にふれて汚染水になる
林 薫平さんのはなし
海洋放出を凍結させ円卓会議で議論をんのはなし
桟敷座
劇場にいただれもが楽しむ
石原哲也さんのラスト公演
連載 |
DAY AFTER TOMORROW(243) 日比野 克彦
サイバー
支配ではなく個々の色が互いに美しくある世界
戸惑いと嘘(99) 内山田 康
人間・社会・自然①
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(79)ニラ