489号 2023年7月15日 |

ピンク色の満開の桜の地になりますように
表現方法の一つに火薬使う現代美術家の蔡國強さん(65)による花火のプロジェクト「昼花火『満天の桜が咲く日』」(満天の桜実行委員会主催)が6月26日、四倉海岸で行われた。蔡さんにとって四倉町はいわきのなかでも特別な地。30年前、いわき市立美術館で開催された展覧会「環太平洋より」の準備のために5カ月ほど家を借りて滞在した。
その間、志賀忠重さんや藤田忠平さんなど、いまでは「いわきチーム」と言われる仲間たちと小名浜下神白の砂浜に埋まっていた北洋サケマスの廃船を掘り出して作品を制作し、5mの導火線を海に浮かべて火をつけ、地球の輪郭を描く「地平線プロジェクト」の準備をした。
10年後、再び砂浜から掘り出した2艘目の廃船はいわきから世界へ旅立ち、アメリカやカナダ、フランスなど、さまざまな国の美術館に展示されるたびに、蔡さんといわきチームは一緒に展示作業をして、かけがえのない仲間、友人になっていった。
蔡さんは上海で美術を学んでいた時、爆発によって放射されるエネルギーの緊張感に魅了され、火薬を素材に制作を試み始めた。花火でも爆発時の制御しがたいエネルギーに惹かれるという。夜の花火は絢爛と輝き、暗黒へ消えていく。昼間の花火は煙の造形ともいえる。
蔡さんの昼花火は2015年のいわき市市制五十周年の際に小名浜で計画された。しかし打ち上げ場所や漁船の扱いなどの課題で中止になった。なんとか、いわきで昼花火を実現したくて、蔡さんはいわきチームとともに模索し、2020年、東京オリンピックの開会式の前日に四倉海岸で行うことになった。
ところが、新型コロナウイルスの影響で蔡さんも中国の花火師たちも来日できずに中止された。今回ようやく、国立新美術館での蔡國強展(6月29日から8月21日)に合わせて行われることになった。
この日は風もほとんどなく、晴れて花火日和だった。震災での犠牲者への鎮魂、過去の痛みとの対峙、追悼、未来に向けての夢と希望。それらの思いを込めた六つのテーマで、30分間に合わせて4万発の花火が打ち上げられた。
まず地平線―白い菊。12の白菊の花火が震災の犠牲者を慰霊した。次に白い波。高さ80mの白い波が突然現れ、波が段々高く、低くなって迫り、最後に高さ80m、高さ400mの白い津波の壁がつくられた。それから黒い波。高さ100mの黒い波が五つ、左から右へ猛スピードで荒れ狂うように移動しながら天に立ち上がった。
記念碑は高さ150m、幅60mの巨大な白波のモニュメント。そして満天の桜。1本の桜の花々から始まって長さ400m、高さ120mの桜の山が30秒ほど続き、風に舞うピンクの雲のように無限に広がった。最後は桜絵巻。緑の木々が芽吹き、桜の森が現れて花が咲いて、やがて枝垂れ桜のように散った。
この桜絵巻は「(万が一いわきに住めなくなった時も)飛行機から見てもわかるくらいたくさんの思いを込めた木を植えたい」と震災後、いわきチームの志賀さんが始めたいわき万本桜プロジェクトと同じ願いを表現した。放射能の被害に遭った地が、ピンク色の満開の桜の地になりますように、と。山の桜と海の桜だ。
特集 蔡國強といわき 地平線プロジェ口とから30年 |
中国人アーティスト・蔡國強さんの展覧会「宇宙遊―〈原初気球〉から始まる」が8月21日まで、東京・六本木の国立新美術館で開かれている。1991年に東京四谷の東長寺境内地下で開いた「原初火球」一つの原点(ビッグバン)とし、それ以前と以後の視点で作品が並んでいる。いわきでも1994年にいわき市立美術館で「環太平洋より」を開き、海に光を走らせる「地平線プロジェクト」を開いている。磐城と蔡の関わりを中心に、その芸術と半生を追った。
「革命の根拠地」になったいわき
その原点
来日
協力しあって時代の物語をつくる
地平線プロジェクト
命を吹き込まれて蘇った廃船
いわきからの贈り物
Traveler
桜の山に回廊美術館が出現した
震災と万本桜
30年前と変わらない蔡さん
志賀忠重さんのはなし

連載 |
DAY AFTER TOMORROW(245) 日比野 克彦
藝大 YouTube
知られざる藝大の姿を現在進行形で知らせる試み
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(83) ノビル