第532号

532号
2025年4月30日

                        I want to protect the ocean.

 いわき市常磐に住む造形作家の織田千代さん(70)の作品展が4月中旬、東京都台東区入谷のいりや画廊で開かれた。東京での個展は数年ぶり。画廊に魅せられ、予約をしてから2年間、2階建ての、天井高が3・2mもある広い空間に、どんな風に作品を飾ろう、と考えてきた。
 会場の入口には、次のような千代さんの「ごあいさつ」が、プロフィールとともにピンで留められていた。

 織の手法を使い、草木や、羊毛、シルクなど、自然素材を用いた立体を造形している。野原で、森で、海で、身の回りの自然から得た感性で造形制作を進めてきた中で、2011年の東日本大震災、福島第一原発事故による影響は避けて通れないものになった。目に見えない放射能の影響は、意識、無意識に関わらず、私の人生の時間をつくっている。

 原発事故後、経験しただれもがそうだったように、千代さんもわけのわからない怖さにつきまとわれ、息を吸うことさえ「安全なのだろうか」と思った。毎朝、目が覚めると、前とは違うと感じる瞬間があって、時々、目の前から色が消え、モノクロの世界にたたずんだという。
 事故が起きた年の秋に、いわき市立美術館で開催される企画展「いま。つくりたいもの、伝えたいこと。」に出す作品を制作しなければならなかったが、なかなか手がつかず、ようやく作り始めたのは夏になってからだった。「KANATA」という作品で、津波に襲われ変わり果てた海岸線を歩き、わき上がってきたさまざまな感情を表現した。
 そのあとは、原発事故への怒りをあらわに出した大きな赤いバッテン「Fの花」、それと対になる水色のバッテン「ウミノカタチ」。それから「ナミヲワタル」、そして「アカルイホウヘ」。陽の光できらきら輝いている海が大好きだった千代さん。海を守りたいと、事故後も海を題材に作品を手がけてきた。

 画廊の空間には新作のほか、これまでの大作が勢ぞろいした。ハート形の「She」、時を経て雰囲気が変わった「彼に降るもの」、イラク戦争をテーマした「BORDER」、みんなの気持ちがつながっていることを表現した「時のリボン」…。
 「Fの花」と「ウミノカタチ」、「ナミヲワタル」はひとつの壁に並べ、床に「アカルイホウヘ」も置いて、原発事故からこれまでの千代さんの思いを表した。赤いバッテンが花に見えるように、しなやかで、ぬくもりのある、明るい色合いの千代さんの作品は攻撃的でも、激しくもない。ただ素直に「やめて」と言い続けている。
 その壁を見つめていたら、海の中にいるように思えてきた。


 特集 小さな旅 塩竈

「塩竈」の地名は製塩用の竈を意味し、古くから製塩が盛んだったことに由来するという。4月18日、この宮城県のほぼ真ん中、仙台と松島の中間にあるこの町を歩いた。古くは歌人が憧れた歌枕の地でも会った塩竈の小さな旅を紹介する。

塩竃まち歩き
鹽竈神社の門前町で港町、都人が憧れた歌枕の地

鹽竈神社のこと
朝廷から熱い崇敬を受ける

裏坂界隈のこと
庶民の参拝道として発展

塩竃文化村のこと
きっかけは田園都市構想

旧亀井邸のこと
贅の限りをつくした住宅

長井勝一漫画美術館
「月刊漫画ガロ」名物編集長の部屋

シオーモの小径のはなし
宮沢賢治の碑も

桜が満開だった塩竃神社

 記事

郡山市長を3期12年にわたって務めた品川萬里さん(80)が勇退した。「民主主義の学校」と言われる地方自治と向き合い郡山に良質の種をまいた品川さんをインタビューした。

指揮者のいないオーケストラをめざした
市長の仕事
歴史情報博物館のこと
憲法を守る
いわきと郡山のこと
民主主義の学校めざし種をまく



 連載

92歳 要介護5
認知症の母を介護して思うこと ⑧ 松山良子
母のこと
予防、改善するには、それまでの生活を変える

阿武隈山地の絶滅危惧種 ⑨ 湯澤陽一
ツボゼニゴケ 苔類 絶滅危惧Ⅱ類

木漏れ日随想(41)佐藤 晟雄
父が残した心の言葉


 コラム

刊Chronicle 安竜 昌弘

天平を語る
私の詩は人間の根本の微少な物質で、
幸福といふ一かけらであります。(草野天平)