| 540号 2025年8月31日 |

空気ではなく本質を見る
いわき市長選(8月31日告示、9月7日投票)を前に、3人の候補者をインタビューし、公開討論会をYouTubeで見た。基本的な訴えはほとんど変わらないのだが、気になったのは「稼ぐ」という言葉。「稼げるまちにしないと人が出て行ってしまうし、集まらない。人口減少がどんどん進んでいく」と口をそろえた。そういえば、湯本駅前再整備に関するワークショップでも、トコナツ歩兵団の団長、渡部祐介さんが「稼げるまちにしましょうよ、みなさん」と力を込めて言っていた。「いわきがめざすべきキーワードが稼ぐか…」。そんな問いが頭の中をぐるぐる回った。
東日本大震災と原発事故を経験して以来、大事にすべきなのは経済ではなく、命であり、それを育む自然だと思っている。それを土台にして、放射能をまき散らされたまちを再生していく。それには、とても時間がかかるし、ごまかしもきかない。覚悟を持って1つひとつ問題と向き合い、解決していく必要がある。でも、だれ1人としてそうした決意が見えない。市民たちの諦念、あきらめムードは、ひょっとして、そういうところから来ているのかもしれない。
いい魚を自分の目で選んで高級料亭に卸していた友だちが嘆く。「何でもかんでも常磐もの、常磐もの。質がいいか、悪いかじゃない。それが気にくわねぇ」
黒潮と親潮が交わる常磐沖の海。そこに良質なプランクトンが棲息し、それを食べる魚に脂が乗る。そもそも「常磐もの」とは、海の業者たちが使っていた言葉だった。魚のプロが「常磐ものは質がいい」とお墨付きを与え、評判が広がっていった。そして掛け値なしのブランドになった。
でも現実はどうだろう。原発事故で放射能が海に流れ、漁ができなくなった。漁師だけでなく、仲買人や加工業にも大打撃を与えた。10年以上経ってやっと、普通に操業できるようになるのかと思ったら、トリチウムなどを含む汚染水の放出が始まった。にもかかわらず、風評被害対策、復興支援と銘打って、「常磐もの」が宣伝材料に使われている。
目利きのプロである友だちにとっては「常磐もの=おいしい」という、まやかしの空気が許せないのだと思う。しかも今、水温の上昇で海流が変わり、いわき名物のウニが壊滅状態になっているという。現状をしっかり見ない、いや見ようとしないで聞き心地のいいことばかり言う。これでは1次産業の活性化どころではない。
経済学者で社会思想家の宇沢弘文は生前、経済格差、気候変動や環境破壊などを予測し、人間と地球のための経済学を提唱した。その基本的な考えが「社会的共通資本」で、豊かで文化的な社会をどうつくっていくかを示した。その根幹には揺るぎのないヒューマニズムがあった。
市長選では、市民受けする小手先の施策には耳を塞ぎ、「いわき100年の計」とも言える将来ビジョンを持っているのはだれなのかを見極めたい。自分本位の「政治屋」ではなく、市民本位で思想や哲学を持った「政治家」に市政を委ねたい。
| 特集 戦後80年 戦争のかけら2 |
「戦後80年 戦争のかけら」第2弾は江名漁業会所属の漁船約30隻が茨城県鹿島灘沖で機銃掃射を受け135人が亡くなった事件や平和の集い講演会、フリージャーナリスト・藍原寛子さんの「模擬原爆を追う」の2回目、釜野井真一さんのはなし2などを紹介する。
鹿島灘沖事件のこと
サメ漁の最中に米機に攻撃されて135人が亡くなる
金成克哉さんのはなし
昭和20年に小学三年生だった金成さんが見た港や寺での記憶を紹介する。
白い雪の上に赤い血がしたたり落ちた
第18回いわき平和の集いが8月23、24の両日、いわき市文化センターで開かれ、8歳のときに広島で被爆した木村緋紗子さんが「あの日の広島を語りつづけて」と題して講演した。
木村緋紗子さんのはなし
被爆者がどんな思いで語り続けてきたのか考えてみてください
8歳で被爆して人生が暗転
父の無念さが語り部の原点
釜野井真一さんのはなし
命の限り戦争体験を校正に伝えていく
いわきの模擬爆弾を追って フリージャーナリスト 藍原寛子
前回のいわき編に続き、福島と郡山編
福島の模擬原爆
福島詩では14歳の少年1人が犠牲に
桑畑で父親が爆弾の破片を見つける
グラインダーで削られた断面
怖さ伝える力減る
郡山の模擬原爆
開館を契機に寄せられた八十年前の郡山の模擬原爆の破片
疎開青年から爆撃当日に受け取る
非常に状態のいい破片

現在の茨城県鹿島灘
| 記事 |
湯本駅前再整備をめぐり訴訟に発展
行政と市民団体の新たな関係が必要』
| 連載 |
パンドーラーの箱(23) 福島の海から考える 天野 光
福島の海に放出されているトリチウムや放射性炭素などによる海洋生態系への影響
阿武隈山地の絶滅危惧種 ⑰ 湯澤陽一
キヨスミイトゴケカリゴケ蘚類 準絶滅危惧
木漏れ日随想(49)佐藤晟雄
水戸での思い出
| コラム |
川本さんの背中を追う
敗者や弱者にそそぎ続ける温かい眼差し
