第539号

539号
2025年8月15日

    目を逸らさずに戦争の愚かさを考えたい

 

 戦後80年だという。終戦の年に生まれた人が80歳だから、あの戦争や時代の空気を体感した人の数は、確実に少なくなっている。そんなことを思いながらふと、磐城高校などで英語を教えていた釜野井真一さん(95)のことが頭に浮かんだ。

 昭和20年3月10日の夜、旧制宇都宮中(現在の宇都宮高校)の3年生だった釜野井さんは、下宿していた伯母の家の2階から、130㎞も離れた東京大空襲の光景を見たという。「火に包まれて建物が崩れ落ちるのが目の前のように見えた。それはひどかった」。そして7月12日の深夜、今度は宇都宮がB29に襲われ、伯母の家が燃えてしまった。
 宇都宮には中島飛行機の工場があって最新鋭戦闘機「疾風」をつくっていた。釜野井さんも工場になった学舎で、戦闘機の機関砲の一部を組み立てる作業をさせられていた。まだ15歳だった。

 その釜野井さんに『マバラカットの空遠く―神風特別攻撃隊敷島隊・中野磐雄少尉の生と死』という著書がある。400ページを超す労作で、自分より5歳年上、しかも19歳の若さで敵艦に体当たりして命を落とした中野磐雄さん(南相馬市出身)のことを書いている。神風特攻隊の基地があったマバラカット(フィリピン)などを訪れてその足跡を追い、平成18年(2006)に出版した。
 膨大な資料を読み込みながら関係者を探し出して話を聞き、中野さんが生きた時代を映し出していく作業。本の裏扉には「この書を、特攻に散り、国難に殉じたすべての英霊にささぐ」との献辞が記されている。
 釜野井さんが中野さんの人生を追う決意をしたのは、心臓の冠動脈がほとんど塞がっていることがわかり、担当医から「手術には30%のリスクが伴う」と告げられたときだった。ふと、以前に聞いた「神風特攻隊のなかに原町出身の若者がいる」という話がよみがえり、「彼らは死ぬことをわかっていて飛び立った。それを思えば何のことはない」と腹をくくることができた。45日間の入院を終えて体が回復してからは、中野さんの心情や無念さに身震いしながら執筆に励んだ。
 「あとに残る人々の心の中に生きられるならば、死んだことにはならない」―これはスコットランドの詩人、トマス・キャンベルが書いた詩「聖地」のなかの一節。釜野井さんはこの言葉を見つけ、「彼らが私たちの心の中に生きているようにしたい」と思ったのだという。
 命を落とした一人ひとりの人生と向き合い、戦争がいかに愚かで馬鹿馬鹿しいものなのかを、しっかりと胸に刻みたい。

 


 特集 戦後80年 戦争のかけら

戦後80年を迎えた。終戦の年に生まれた人が80歳だから、あの戦争の記憶は、確実に薄れている。15歳で終戦を体験した釜野井真一さん(95)の人生や思いを紹介するとともに、国内に落とされた「模擬爆弾パンプキン」を追っているフリージャーナリストの藍原寛子さんに、いわき関係の模擬爆弾について書いてもらった。

釜野井真一さんのはなし

いわき市平中神谷に住む釜野井さんは2006年(平成18)、『マバラカットの空遠く―神風特別攻撃隊敷島隊・中野磐雄少尉の生と死』を出版した。釜野井さんの人生と中野少尉への思いを聞いた。

その人生
旧制中時代は文学青年
宇都宮から東京大空襲が見えた

マバラカットへ
中野磐雄さんのこと
特攻隊員の足跡を追いかける

いわきの模擬爆弾を追って フリージャーナリスト 藍原寛子
米軍が日本国内に投下した模擬爆弾(パンプキン爆弾)は49発。広島と長崎の原爆に先立って投下された。長崎に投下されたものとほぼ同じ形の1万ポンド高性能爆弾で、原爆を想定した訓練爆撃だった。福島県内に落とされたのは福島市、郡山市、いわき市の3カ所。いわき市では平一小の校長や教頭を含む3人が犠牲になった。藍原さんにいわきに絞って書いてもらった。

今も続く追悼行事
破片が語る悲劇の歴史

歴史の「空白」が叫んだ模擬爆弾の存在
「訓練」として民間人を爆撃
平第一小学校に残る破片
いわきの着弾地不明の一発を追って
「形を残すな」とされた模擬爆弾の破片が生き残り、語りかける

終戦体験などを語る釜野井真一さん

 記事

いわき市長選立候補予定者インタビュー
いわき市長選が8月31日告示、9月7日投票で行われる。立候補を表明しているのは現職の内田広之さん(53)、前市長の清水敏男さん(61)、新人で元衆議院議員の宇佐美登さん(58)。それぞれの思いを紹介する。

内田広之さんのはなし
「住んで幸せないわき」にしたい

清水敏男さんのはなし
工業団地を造成して企業を誘致

宇佐美登さんのはなし
まずはいわきの医療体制の構築

いわき信用組合 金成茂理事長のはなし
これまでの膿をすべて出し切る
多額の不正融資が明らかになったいわき信用組合は人身の一新を図り、生え抜きの経理部長、金成茂さんを理事長に抜擢した。金成さんの人となりやこれから何をしていくか、などを聞いた。
人となり
理事長になって

わたしの本棚
『私の選んだ文庫ベスト3』編者・丸谷才一 ハヤカワ文庫

 連載

阿武隈山地の絶滅危惧種 ⑯ 湯澤陽一
オオミズゴケ 蘚類 絶滅危惧Ⅱ類

木漏れ日随想(48)佐藤 晟雄
「英国水彩画展」から



DAY AFTER TOMORROW(270) 日比野 克彦
母の思いと視点
違ったヒビノが見えてくる展覧会です

 コラム

ストリートオルガン(203) 大越 章子

竹所への旅
水の豊かな土地で、坂道に家が点在する集落