| 554号 2026年 3月 31日 |

まるで繁殖するかのように
事故の影響は無限に続いていく
本書の主要なメッセージの一つは、明確な始まりと終わりというものは、私たちがいくらそれを望もうとも、核事故(福島県の場合は原発事故)にはないということです。
ケイト・ブラウンさんの著書『チョルノービリ・マニュアル 原発事故を生きる』(緑風出版・定価4200円+税)の日本語版序文はそう始まる。続く文章を要約すると、事故が起きて地域を閉ざし、原発を抑え込むなどして放射能を封じ込めたつもりでも、放射性同位体(放射線を出しながら別の元素に壊変する物質)は独自の環境をつくって、まるで繁殖するかのように、ひとつの事故が別の事故を生み出し、事故の影響は無限に続いていく――とある。
ケイトさんはアメリカの歴史学者で、チョルノービリ(ロシア語ではチェルノブイリ)を取り上げる前に『プルートピア』(2013年刊)を出版している。東西冷戦期に軍拡を競い合ったアメリカと旧ソ連の歴史を、核兵器の製造にかかわった人々の暮らしや土地と結びつけて考察した。
その3年後、チョルノービリ原発事故から30年の時を経た現地を訪ねた。事故による人体、環境への影響はなぜ明らかにならないのか、なぜ事故後も社会は事故前と同じように動いているのか、放射性物質との共生を強いられる暮らしとはどのようなものなのか、と疑問を持ったからだった。
事故対応や処理にかかわった技術者、医師、物理学者、消防士、兵士、放射能汚染地域の住民などに話を聞き、公文書といった多くの資料も発掘した。事故による人体と環境への影響を鮮明にし、起きた事故の状況や事故による影響が隠される背景を探ろうとした。
英語版が刊行されたのが2019年。すでに福島の事故が起きて8年経っていて、旧ソ連と日本政府や東電の事故対応などの比較もしている。日本語版は昨年3月に出版された。534ページもある厚い本で、原注や索引を除いても420ページある。昨年暮れから少しずつ読んだ。チョルノービリのことだが、肌で感じられることが多い。
「事故は起こるものだ。しかし終わりの見えない大惨事から結論を引き出すのは難しい」と、ケイトさんは書いている。チョルノービリの事故から得た教訓は、安全だと言われた技術にも失敗がある、いまだに事故が起きた社会のためのよりよい指導書がない、政府は安全性を強調し住民の怒りをなだめて納得させる、事故の影響は覆い隠され経済や国のプライドが優先される―などだ。
人類はチョルノービリの事故を過小評価した結果、次の事故に備えることができなかったという。それは広島・長崎の原爆投下、世界で行われた核実験まで遡るだろう。福島の事故から15年を経て、わたしたちがチョルノービリの事故で明らかになったことに、ふくしまのいまを積み重ね続けていくことが未来の手引き書になる。
| 特集 IN MY LIFE 広田次男さんの来し方 |
わたしの仕事は庶民の生活をどう守るか
ふくしま平和訴訟や常磐じん肺裁判などを担当し、市民オンブズマンとして活躍した広田次男弁護士(80)がいわきを離れ、東京にすまいを移した。本人曰くセミ・リタイア。とはいえ、事務所は残し、ALPS処理汚染水差止訴訟などは引き続き担当する。弁護士生活五十年弱。広田さんの人生を振り返る。
いま思うこと
生い立ち
早大闘争
一人の千歩より千人の一歩を大切にした
弁護士として
進むべき道は弁護士しかなかった
常磐じん肺裁判のこと
貧しかった炭住の住民
12年半に及んだじん肺裁判
オンブズマンの思い出
全国野球訴訟を提訴し県会議員24人に監査請求
憲法九条のこと
いま、九条の精神が必要とされている
九条は憲法の基本
終末時計は残り85秒
安保法制のこと
真剣に話し合って上告しないことに

弁護士生活50年近くになる広田さん
| 記事 |
3・11の給食お赤飯について考える
食べる前に説明すればよかった
卒業式2日後に控えた3月11日、保護者と思われる人の「震災があった日に赤飯はいかがなものか」という一本の電話をきっかけに出す予定だったお赤飯、約2100食分が廃棄された。教育委員会の判断だった。その後、報道をきっかけに約600件ものメールが寄せられた。事実関係を追いながら、事実関係を追いかけた。
日々の本棚
『検証 安保法制 10年目の眞実―「仙台高裁判決」の読み方』
今だからこそ「安保法制」を深く知るべき
シネマ帖
ダウントン・アビー グランドフィナーレ
終わりと友に寂しさ
| 連載 |
阿武隈山地の絶滅危惧種 ㉙ 湯澤陽一
オオクボシダ シダ類 絶滅危惧Ⅱ類
木漏れ日随想(61)佐藤晟雄
おふくろの巻繊汁
いわきに伝わる天気ことわざ② 島田栄二郎
卯の花の月
| コラム |
ローカリズム
国に頼らない住民による自治その原点や理想がボローニャにある
