12年前、無名の中国人アーティストだった蔡國強さんがいわきを舞台にして行った「地平線プロジェクト」。その象徴ともいえるのが、廃船を利用した作品「迥光
龍骨」だった。漂流の果てに砂浜に打ち上げられていた北洋サケマス船。蔡さんはそのドラマ・精神性に着目し、掘り出して作品として甦らせることにする。
ボランティアや船大工の手を借りて再生された巨大な廃船は美術館に運ばれ、いわきの海水から作られた9トンの塩の海の上に置かれた。それを見た蔡さんは言った。「沈んだ船は再び光を与えられ、記憶を戻した」
時が過ぎ、蔡さんは世界を舞台に活躍するアーティストになった。しかし、どんなに周りの状況や立場が変わっても、蔡さんはあの時の蔡さんのままだった。
いわきというまちでいわきの人たちと一緒に物語をつくった蔡さんだからこそ、「人間・蔡國強」の魂の中心にはいつも、みんなで力を合わせて掘り出した廃船からつくった「迥光
龍骨」と「三丈の塔」があった。
その「迥光 龍骨」が10月はじめにも姿を消す。巨大な龍骨は、蔡さんの思いとは裏腹に管理上厄介な作品だった。寄贈を受けた市は置き場所にさえ困ったが、船が埋まっていた砂浜が見える、小名浜・三崎公園に展示することで事なきを得た。防腐剤が施されているとはいえ、材質が木で雨ざらしのために風化が速く、作品としてそのまま展示することが難しくなった。2年前に公園を管理している市公園緑地課が周辺を木の柵で囲ったが、さらに傷みが激しくなり、決断を迫られていた。
管理上の問題や修復費用のことを考えると苦渋の決断だったのだろう。しかし他に方法がなかったのだろうか、というのが市民の1人としての偽らざる心境だ。
「迥光 龍骨」はいったん解体されて広島市現代美術館に運ばれ、10月の蔡國強展で「無人の花園」として甦ることになった。
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