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4月に開かれたいわきでの初めてのリサイタルで、興味深い現象が起きた。自分が
ピアノを弾いているのだけれど、大きなものに動かされている感じ。「何だろう、これは」。小林亜矢乃さんは思った。初めての経験だった。
舞台は生き物。その時々のコンディション、集まった人々、会場の環境などから、音楽が違ってくる。場から受けるインスピレーションでどういうものが出てくるか。それに出会えた時、いいコンサー
ト、リサイタルになるという。
父は指揮者の小林研一郎さん、母の由利子さんは琴奏者。音楽はいつもそばにあった。4歳でピアノを始め、高校時代の後半に専門に学んでいくことを決めた。ピアノ
はいろんな楽器の表現ができる楽器。「もっと、勉強したい」。そう思った。
大学を卒業した後はドイツへ留学し、さまざまな人に出会い、刺激を受け、「これじゃダメ」と自分を思った。毎日のように音楽会に出かけ、耳を磨く事から始めた。いろんな人のいろんな音楽を聞き、それが自分の中に降り積もって何がしたいか、音をどうしようか考えることを繰り返している。自分をフィルターとしてろ過したものが、一滴一滴養分として染み込んでくるのを待つ。亜矢乃さんはそれを“浄化作用”と呼ぶ。
いま、コンツェルト・イグザーメン(ドイツ国家演奏家資格取得コース)に在学していることもあって、生活の拠点はドイツに置いて、スペイン、ギリシア、イタリア
などあちこちでコンサートを開き、日本には仕事がある時だけ戻ってきている。だから荷物はいつも旅行鞄にそのまま入っている。
すでに亡くなってしまった作曲家たちの曲を音にする時、その魂、残したかった気持ち、何を言いたかったのかを思う。そうしているうちに、その作曲家が肉親のようになっていく。
毎日はピアノとともにある。自家製納豆を作っていて命の力を思い、あの曲はこれだな、と思ったりする。こうしてみたらどうだろうと、自分を実験してみるのは楽しい。パンやケー
キを焼いていてもそうだ。
何が起こるかわからない舞台。いつも違う自分に出会える場所だ。舞台は怖くて、楽しい。その舞台に立って、亜矢乃さんは恐怖感をも楽しみながら、音楽で人々一人ひとりの心に入り込む。 |
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