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午後4時、「日比野克彦展」テープカットとオープニングパーティーの準備が進められていた。きのうまでの喧噪やあわただしい動きが嘘のように、美術館全体がぴたっと収まっている。しかし何とも言えないよそよそしさというか、不思議な緊張感が漂っている。「いよいよ」という感じなのだろう。
日比野さんは、ミュージアムショップ(グッズ売り場)でカタログにオリジナルガムテープを貼っていた。タイトルのない真っ白な表紙に、日比野さんがデザインしたタイトルを好きなように貼る趣向で、ここにも「オリジナル」にこだわる日比野さんの姿勢が見える。日比野さんは、カタログを買った人が戸惑わないようにいくつかの見本を作っているのだった。
午後5時過ぎ、テープカットの儀式が始まった。岐阜のご両親と奥さんのこづえさんもやってきた。日比野さんは、赤いTシャツと短パン姿から、白いTシャツに白いコットンパンツ、オレンジ系の上着といういでたちに着替えて登場した。それが、日比野さん流の正装なのだろう。あらたまったセレモニーの中で、日比野さんは「この展覧会のために割いた修復の時間は、とても楽しく幸せな時間でした。あっという間に20年を飛び超えて、当時に戻った感じがしたんです。『こういうことにこだわってこういうことに迷ってたんだ』という状況がよみがえり、なんだか懐かしかった。老後は、こんな過ごし方もいいな、と思ったりもしました」とあいさつした。
「日比野さんってどんな旦那ですか?」ーこづえさんをつかまえて話を伺った。こづえさんには独特のリズムがある。波がゆったりとしているときの海のような穏やかさだ。「あのまんまです。ベストパートナーです。一緒にいるときの方が楽なんです。それから仕事がプレッシャーにならないタイプですね」と静かに話した。こづえさんもご両親も作品を見ながら、日比野さんと歩んできた道を戻っているように見えた。「これを作っていたころに病気をしてねぇ」。お母さんが岐阜弁で話してくれた。「これはフランスのときだったな」。お父さんも振り返っている。「いつも一緒でしたから。のりがはがれたのを直す手伝いをしたこともありました」。こづえさんも懐かしそうな眼差しだ。日比野さんも、「お父さんあれ見た」と案内している。家族が久しぶりにそろった。
「写真を撮りましょう。お気に入りの作品の前で」と促すと、「やっぱり大学時代のかな」といって4人が並んだ。伊勢正三が歌った「君と歩いた青春」のように、会場には「それぞれの中の日比野克彦」が充満していた。
オープニングパーティー。美術館長で画家の田口安男さんがあいさつした。
「日比野君は、私たちの日本社会のきつく締められたねじを弛めて回っている人ではないか」
いよいよ「日比野克彦展」が始まった。
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