第421号

421号
2020年9月15日


ここに暮らすみんなの声
織田 千代    

 原発事故後、私は「復興」という言葉の使われ方にとても違和感を感じています。
 事故後になされたことといえば、まず放射能の流れを知るためのシステム「スピーディ(SPEEDI)」はやめてしまう、モニタリングポストも減らそうとしました。挙げ句の果てには除染土の再利用まで始めています。最近のニュースによると、飯舘村では除染土の上に覆土もせずに野菜を植える実験がなされる、ということまで紹介されていました。このようなニュースがどんどん増えてきているように感じます。
 あの原発事故が起きた時、私は豊かな美しい色に溢れていた福島の、カラーだった世界が一瞬にして白黒の世界になったように感じました。しかし今、国はそこに無理矢理、上から色をのせて「ほら以前と同じ世界に暮らせているでしょう、何も心配はありません。」と言っているように見えます。
 汚染水を溜めたタンクを目の前からなくせば、事故前の生活に戻れると本当に納得し、故郷の復興が叶うと本心から考えている方はどのくらいいるのでしょう。もしかしたら、そこに発生する補償や仕事がなければ、やっていけないという方もいるでしょう。でも、この9年半、本当に苦労して除染作業をしたり、学校や保育園や公園の敷地の放射線量を測ったり、水や土や食品を測定して、少しずつ安心を確認しながら暮してきた人たちは「もう2度とあんな被害は受けたくない」という方がほとんどだと思います。
 いま、漁業者も、農産物を作る人も、それを提供するお店や観光業も、何よりそれを本当に美味しくいただく喜びを知っている生活者が声をあげています。
 先日、市民側からの企画でようやく実現した「資源エネルギー庁との意見交換会」でも、「正しい情報を伝えて! もっともっと市民の意見に耳を傾けて!」そして「これ以上放射能を海に流さないで!」の声があがりました。全国からパブコメも4000以上、署名は23万になろうとしています。政府はこの声にどう答えて、どう行動していくのでしょう。
 心配だ、という生活者の声に「風評被害をおこす者」というレッテルを貼り、そのおかげで復興が進まないのです、という論理にすり替えようとするやり方はいつまで続くのでしょう。アンダーコントロール発言をした安倍総理が辞任して、何か変わるでしょうか。逆方向への復興が加速しないでしょうか。
 人の作った基準、それ以下だからといって、海に汚染水を流さないで下さい。それは、原発事故の拡大がこれからも続く、ということを意味します。事故の影響の歯止めがなくなる、ということだと思います。本物の復興を望み、廃炉を目指すのなら、まず、これだけ過酷で多方面に関わる重大な事故が起きたことをしっかり認識し、その影響が、もうこれ以上、少しでも広がらないような方向での丁寧な努力をして見せてほしいのです。
 失ったものは山のようにあります。その大きな1つは、政府への信頼です。そこが信じられればこそ、大きな安心が得られるし、皆が同じ方向を向いて前にも進めると思います。

(これ以上海を汚すな! 市民会議 共同代表)


 特集 くり返しくり返しトリチウム汚染水を考える

 東北電力の福島第一原発の敷地内にたまり続けているトリチウム汚染水の処分方法について、経済産業省と「これ以上海を汚すな! 市民会議」(織田千代、佐藤和良・共同代表)の意見交換会が9月3日、いわき市文化センターで開かれた。「海洋放出か、水蒸気放出が現実的」とするALPS小委員会の提言を受けたあと、経産省が市民向けの説明会(意見交換会)を開催するのは初めて。そこでの説明を踏まえ、トリチウムを含む汚染水の処理について考える。
 

汚染水は無害になるまで保管して

 2022年夏には、トリチウムを含む汚染水をためている福島第一原発の敷地内のタンクが満杯になってしまうという。そもそもトリチウムを含む汚染水とは何なのか。トリチウムは健康に影響を及ぼさないのか。漁業者たちがこれまで、地下水バイパスやサブドレイン(建屋近傍の井戸)から汲みあげた地下水の海への放出を、苦渋の選択で受け入れてきたのは、タンクに貯蔵されているトリチウムを含む汚染水を海に流さないためだった。「これ以上海を汚すな! 市民会議」も、無害になるまで汚染水をそのままタンクに保管することを求めている。 

野﨑 哲さんのはなし

 福島県漁業協同組合長の野﨑さんは一貫して、トリチウムを含む汚染水の海洋放出に反対している。そしてコロナ禍、東京オリンピック延期、政権の交代と社会を取り巻く状況が変わるなかで、この問題をこのまま進めていいのか、と疑問を呈している。さらに「反対は立場の表明であって政府に逆らっているわけではない」と言い、反対者がいなくなってしまったら、あとあとのチェックが効かなくなる、と危惧する。

まちの声

 9月6日、小名浜港周辺でトリチウムを含む汚染水問題について、8人(グループ)から 生の声を拾って歩いた。無関心派、「流さない方がいいけれども、流すんでしょう」というあきらめ派などさまざまで、それぞれの意見を紹介する。

明確な「海洋放出反対」は10市町村

 今年に入って、県内各市町村議会ではトリチウムを含む汚染水問題で、県内59市町村の家21市町村が意見書を可決した。「海洋放出反対」を明確に文言として入れたのは10市町村だった。その内容を読み解き、それぞれの事情につい取材した。

いわき市議会の対応

  いわきは「陸上保管を継続すること」という文言は入っているが、「永久保存」ではなく、条件付き。浜通りの盟主でありながら、八方美人的で玉虫色の、どっちつかずの意見書になってしまった。その背景を探った。

 

 記事

新型コロナウイルスのこと(9)

 いわき市では9月6日、21例目の新型コロナウイルスの感染者が確認された。


まちがたり

備中屋本家斎菊
 蔵を改造してオルタナティヴスペースとカフェをオープンさせた、嶋崎剛さんの思い。

 

 連載

戸惑いと嘘(55) 内山田 康
見えない過程(3)


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(18)カワラナデシコ


もりもりくん カタツムリの観察日記⑥ 松本 令子
なだらかなベッド


DAY AFTER TOMORROW(211) 日比野 克彦 
コロナ渦での「赤鬼」

 

 コラム

月刊Chronicle 安竜 昌弘
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