423号 2020年10月15日 |
記録的な大雨をもたらした台風19号の災害から10月12日で1年が過ぎた。いわき市で初めて大雨特別警報が発表され、三和町では総雨量が448.5mmにもなった。夏井川や好間川、新川、宮川、鮫川で堤防が決壊・越水し、決壊した9カ所のうち8カ所が夏井川だった。
小川や好間、遠野、赤井、平窪、鯨岡など広範囲に浸水し、その面積は約1275haにもおよぶ。9人が亡くなり、7300ほどの世帯が住まいに被害を受けた。なかでも夏井川の左岸で、真似井川や小川江筋が流れる平窪は平地のほとんどが浸水し、平浄水場も水没して広域的な断水となった。
あれから1年、台風のあとに平窪を歩いたとおりに辿ってみた。夏井川沿いの、堤防が決壊した四左エ門内、大念仏、中島、大きく陥没した戸川原。それぞれ堤防はコンクリートブロックをのり面に張るなどして整備され、戸川原の陥没もきれいに埋められた。四左エ門内そばの河川敷では、大がかりな樹木の伐採作業も行われている。
住宅地を縦横に車で走ると空き地が目立ち、解体中の家にも遭遇する。中島の決壊した堤防近くで、台風のあと、土蔵の扉が開かなくて困っていた80代ぐらいの婦人の家もなくなり、広い敷地にたわわに実ったミカンの木がぽつんとあった。
大念仏の堤防そばで、あの時、仲間の手を借りて泥を洗い流していた家はすべての雨戸が閉められ、その隣はさら地になり、数軒先の、奥さんが「急いで中央台に家を求めたので、ここは自営の事務所にする」と話していた家は、そのとおりになっていた。
救助のヘリコプターから落下して亡くなってしまった70代の女性の家にはいま、だれも住んでいない。つい数日前に、修繕が終わったばかりの家がある。リフォームは早めに終えたが、また同じことが起きたらと、怖くて家具をそろえられない家もある。夏井川の河川工事が終わるのは、あと3年半ほど先だから。
「あの日、何が起きたのかを知りたい。それをどう検証して、どういう対策をするために工事をしているのか、それもどんな進め方をしているのかを知りたい。そのために行政の説明会を開いてほしい」。人々は異口同音に言う。
下平窪は二月に自主防災会の集まりで説明の場を一度設けたが、それではまだ説明不足。中平窪は三月に開く予定だったが、新型コロナウイルスの影響で実現していない。一年が経ったのにいまだ、何が起きたのか、今後の被害を防ぐためにどんな対策をしようとしているのかが説明されず、不安が募るという。
決壊した場所は改修されても大雨が降ればその両脇が弱いと聞く、戸川原の陥没の原因は本当に炭鉱の坑道が関係していないのか、堤防の決壊場所のほとんどが左岸なのは右岸より左岸が低く造られているからではないか、小玉ダムからの排水がなんらかの影響をおよぼしたのではないか…住民たちの心配は尽きない。
安心して平窪で暮らせるように、人々は説明を求めている。
特集 このいちねん 台風19号被害(1) |
台風19号による洪水被害から1年が経った。夏井川の河川改修工事は始まったとは言え、雨に怯える住民たちの不安は解消されていない。いま何が問題で行政にはどうしてほしいのか。平窪地区を歩き、住民たちの声を拾った。
佐藤 将文さんのはなし
佐藤さんは下平窪の区長で、被災者で唯一の検証委員会の委員。地区民が編めに対して敏感になるなかで、「役所と地区民の間にさまざまなギャップがある」と言う。
薄葉 茂夫さんのはなし
上平窪はほとんど被害がなかったが、子どもたちが戻ってこなかったり独身が多かったりと、世帯数の減が課題だという。
降谷 美知正さんのはなし
中平窪の区長である降矢さんの悩みは、住民が要望している進捗状況の説明会がコロナ禍でできないこと。中平窪は借地が多く、解体後は土地を地主に返還する住民が多い。
横山 佐知子さんのはなし
横山佐知子さんは中平窪の常勝院の住職の奥さん。昨年の台風19号の時は境内にも水が上がったが、ありったけの米を炊いておにぎりを作り、近所に配った。娘さんはSNSで支援を求め、お寺は物資の配給や炊き出しの拠点になった。台風被害から1年が経ったいま、平窪で安心して暮らせるようにしてほしい、と心から思っている。
庄司 秀樹さんのはなし
東洋システムの社長である庄司さんは、1年前に現地に入ってさまざまな救助活動をした。それを踏まえ、地域単位での行政と企業の災害協定の必要性、きちんとした災害検証を訴える。
渡辺 博之さんのはなし
市議だった渡辺さんは避難所などを回って歩いた。台風19号で痛感したのは、「流域治水」。それぞれができることをすれば、災害を少なくすることができる、と話す。
記事 |
メトロノーム おざなりな検証報告
台風19号の「災害対応検証委員会」は8人。うち、被災者は1人。被災地を歩くと、「あの水害はどうして起こったのか。いまどこまで復旧しているのか見えない」という声を聞く。検証委員会は現場を歩き、被災者の声をきちんと聞いて健勝に生かすべきだった。
日々の本棚
東京人 11月号
井上ひさしの没後10年で「井上ひさしの創造世界」を特集。生前親交があった憲法学者・樋口陽一さん、評論家の川本三郎さんなどが原稿を書いている。
連載 |
ひとりぼっちのあいつ(1) 新妻 和之
子どもたちが先生でした
新妻 和之さんの新連載
戸惑いと嘘(57) 内山田 康
見えない過程(5)
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(20)ケヤキ
もりもりくん カタツムリの観察日記⑧ 松本 令子
なだらかなベッド
DAY AFTER TOMORROW(212) 日比野 克彦
「なまみまして」
コラム |
月刊Chronicle 安竜 昌弘
おみおくり
ときが過ぎひとが過ぎいまも心に残るその面影