第424号

424号
2020年10月31日

 

 全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と、福島県漁業協同組合連合会の野﨑哲会長は10月15、16日、官房長官と4人の関係閣僚をそれぞれ訪ねた。そして東京電力の福島第一原発の敷地内にたまり続けているトリチウムを含む汚染水の処分で、有力視されている海洋放出について「わが国漁業者の総意として絶対反対。慎重な判断を求める」と要請した。
 時を同じくして「10月27日にも開かれる関係閣僚会議で、海洋放出を決定する見込み」との報道がテレビや新聞で伝えられたが、1週間後、政府は10月内の決定を見送った。ただ決定時期が11月以降になったというだけで、海洋放出を方向転換するわけではなさそうだ。

 これまで繰り返しふれてきたが、汚染水の発生量を減らすために福島県漁連が建屋の山側で汲みあげた地下水(地下水バイパス)や、サブドレイン(建屋近傍の井戸)から汲みあげた地下水の海への放出を受け入れてきたのは、タンクに貯蔵されているトリチウムを含む汚染水を海に流さないためだ。苦渋の選択だった。
 タンクに貯蔵された汚染水は、原子炉の炉心や燃料デブリにふれた汚染水を処理したもので、地下水バイパスやサブドレインで海に排出している地下水とはまったく違う。トリチウムのほかにも、ALPS(多核種除去装置)を通り抜ける放射性物質が存在し、ALPSで完全に取り除けていない核種も含まれている。それを規制基準内の濃度に薄めて30、40年かけて海に流す。すると汚染水は沿岸を南北に伸びていく。
 だから漁業者たちは、歩み寄れるのは地下水バイパスとサブドレインまで、と固く心に決めて了承した。その際、東京電力から「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わず、ALPSで処理した水(トリチウムを含む汚染水)は発電所地内のタンクに貯留する」と、約束をとりつけている。
 歩み寄れるのは地下水バイパスとサブドレインまで。福島県で暮らすわたしたちはもちろん、近県そして全国の人々も気持ちは同じだろう。積極的な発言はしなくても「トリチウムを含む汚染水を海に流すべきではない」と、多くの人たちが思っている。
 それは海を守るというほかに、未来を守ることにもつながる。原発事故が起きて、これまでいろいろなことがあった。廃炉作業がきちんと終わるまでの予想もつかない遙かこれからの年月にも、さまざまな難問が降りかかってくるだろう。
 トリチウムを含む汚染水の処分の行方が、未来に向けての試金石になる。漁業者たちのあの時の固い決意を、なし崩しにしてはいけない。


 特集 このいちねん 台風19号被害(2)

 台風19号で大きな被害が出たあと、「小玉ダムが放流したのでは。愛谷堰のゲートが閉まっていたために溢れた」という噂が流れた。その後、誤解とわかったが、一般には理解が難しい。小玉ダムと愛谷堰について取材した。

橋本 孝一さんのはなし

 福島高専名誉教授で、夏井川流域住民による川づくり連絡会などの代表をしている橋本孝一さんに、昨秋の台風19号から1年が過ぎて、いま感じていること、考えていることを聞いた。橋本さんの自宅も台風19号で浸水被害に遭っている。

愛谷江筋のはなし

愛谷堰施設長兼事務局長 菅波 孝光さん

 菅波さんは「流域全体で考え、遊水池化も検討する必要がある。さらに水戸の情報に敏感になり、早め早めの対策が必要」と話す。

小川江筋のはなし

磐城小川江筋土地改良区事務局長 矢吹 英信さん

 小川江筋は小川町関場の源門から四倉町戸田まで、山ぎわをくねくね26km通っている。土地改良区事務局長の矢吹英信さんに台風19号当時の小川江筋のことなどを聞いた。

平浄水場のはなし

市水道局長 加藤 弘司さん

 加藤さんは「平浄水場に関しては周辺に大型土嚢などを置いて応急処置をしている。外部に抜本的な浸水防止策を委託しているので、それができるのを待って方針を決めたい」と話している。

 記事

磐城平城本丸跡地から見つかった本丸御殿の遺構

 旧平藩主の安藤家家臣の子孫たちの平安会(松村耕三会長)と、磐城平城跡地の平24区城山自治会(飯土井利之会長)は10月下旬、「本丸御殿の遺構は見える形で保存してほしい」などの要望書をいわき市に提出した。


ひとこと

石川 貞治さん

 久しぶりの個展をいわき市平のギャラリー界隈で開いた、石川貞治さんに長年テーマにしている「杜のシリーズ」について話を聞いた。


小宅 幸一さんのはなし

 インターネットの普及やデジタル化によって埋没し、消えて行ってしまう人びとの記憶や記録。それをかたちとして残すために『いわき発・歳月からの伝言 ①あ~お』をシリーズ化して出版することにした、という小宅さんから話を聞いた。


写真集『日本海景』のこと

丹野 清志さん
 白河在住の丹野さんが、1960-1990年代に撮影した日本の海辺、そこで暮らす人びとの営みを編んだ写真集。そこからは開発がもたらした公害が見え隠れしている。

 連載

戸惑いと嘘(58) 内山田 康
時間(1)


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(21)ヒカゲノカズラ


ひとりぼっちのあいつ(2) 新妻 和之
退職してなお…


もりもりくん カタツムリの観察日記⑨ 松本 令子
クールなともだち


ぼくの天文台 余話(3)
吉祥寺にて

 7月21日に急逝した粥塚伯正さんが記した160回をたどりながら、その思いや周辺を「余話」として紹介する。

 

 コラム

ストリートオルガン(156) 大越章子
久しぶりのコンサート
ベートーヴェンとフォルテピアノ