第429号

429号
2021年1月15日
画・黒田 征太郎

見えず、臭わずの不安と恐怖のなかで
出る人間のエゴと醜さ

 2021年が始まった。2011年3月11日から10年。ひと昔の区切りになるのだが、まだまだ終わらない。震災・原発事故後はこれからも続く。
 福島第一原発には溶けた燃料があって高い放射線を出している。水素爆発によって飛び散った放射性物質は山野を汚染し、キノコや山菜などにより多く含まれているので、いまだに食べることができない。これは風評被害ではなく実害で、意識の外に置くことは到底できない。
 さらに原子炉建屋に入り込んだ地下水は溶けた燃料に触れて汚染水となり、濾過してもとれないトリチウムなどを含んだ水が溜まっている。国や東電は「汚染水を入れたタンクが増え続けて敷地が狭くなり処分が必要」と言い、総合的な判断では水で薄め、時間をかけて海に流すのことが一番だと説明する。
 福島県民のだれ一人として納得していないのだが、県知事をはじめ首長のほとんどは明確に「反対です。やめてほしい」と言うことができないでいる。「風評被害対策をしっかりやってほしい」という言葉で逃げて、国の顔色をうかがうばかりだ。震災・原発事故から9年と10カ月、わたしたちは、そうした日常を生きている。
 放射能を取り巻く意識の分断が、それぞれの心に深く広く根を張り、気を遣いながらなんとか折り合いをつけて生きている。声高に叫ぶわけではなく、でもあきらめるわけでもなく、目をそらさないで目の前の現実を受けとめながら対応する、そんな日々だった。一つはっきり言えるのは、震災・原発事故の前とあとを、区切って考える癖がついた、ということだと思う。

 新型コロナウイルスについても考えることが多い。行政は感染患者に対する攻撃や差別・偏見を理由に、詳しい情報を出さないようになった。それが実態をより見えにくくし、不安を増幅させている。市民のコロナに対する考え方もそれぞれで、細心の注意を払っている人と、たかをくくっている人の差が激しい。経済に気を遣うあまり対策が中途半端になり、感染を拡大させた政府の責任も大きい。
 「感染した人と、まだしていない人」「放射能に覆われた地域に住む人とそうではない人」…。コロナ禍と放射能禍は、さまざまな面で共通している。一番は、存在を確認することができない不安と恐怖のなかで、醜い人間のエゴが出る、ということだろうか。


 特集 コロナの時代に 長久保 鐘多(しょうた)さんに聞く

 新型コロナウイルスの感染者が日本で最初に確認されて一年が過ぎ、さらに感染者は増えている。コロナ禍と言われる中、詩人の長久保鐘多(本名・博徳)さんに、いま何を思い、考えているのかを聞いてみた。

 記事

コロナウイルスのこと(12)


市長の新春記者会見 磐城平城本丸跡地について


「いわき再起動」を掲げて内田広之さんが出馬会見

 内田さんは文部科学省出身の48歳。いわき市平下神谷で生まれ、草野中、磐城高校、東北大教育学部と進み、東大教育学研究科を修了した。会見では「人のいのちと生活を守る」というスローガンを披露し、具体策を述べた。


メトロノーム

市長選のこと

 過去2回の選挙に立候補した清水敏男市長(57)、元衆議院議員の宇佐美登さん(53)に文部官僚出身の内田広之さんが加わった選挙戦。市長の役割について考える。


続 にんげん 吉田富三

 前回に続いて、吉田富三の生き方、人生哲学を深く掘り下げた。

正義感からの行動
漢字へのこだわり
命は預かりもの
吉田富三のふるさと 浅川町あるき

桑原 紀之さんのはなし

 癌研の研究所で富三の下で働いていた桑原さんから、富三の人となりを聞いた。

 連載

阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(26) ノキシノブ


ひとりぼっちのあいつ(7) 新妻 和之
ホームの時計を見つめていたら…


もりもりくん カタツムリの観察日記⑭ 松本 令子
淡 雪


DAY AFTER TOMORROW(215) 日比野 克彦
エラ呼吸へ

 コラム

月刊Chronicle 安竜 昌弘
かたづけ
勝負は朝の10分 道具を元に戻す 暖房から離れる 思ったら動く