第435号

435号
2021年4月15日

未来に何を伝えますか

 双葉郡富岡町の文化交流センター「学びの森」。この施設は町役場と同じ敷地にあり、教育委員会事務局や図書館、ホール、歴史民俗資料館などが入っている。2011年3月11日は中学校の卒業式で、大きな揺れに見舞われた午後2時46分には、たくさんの子どもたちがいた。そして夕方からは、2階にある会議室が富岡町災害対策本部になった。
 福島県立博物館で3月21日まで開かれていた「震災遺産を考える―次の10年につなぐために」では、その部屋がそっくりそのまま再現された。4台のホワイトボード、長机を寄せてつくられたメインテーブル、停電のために真っ暗な室内を照らす照明器具、そしておびただしい数のメモ…。そこには、被災状況、避難所ごとの避難者数、児童の安否、原発の現況などが記されている。椅子の上には防毒マスクが放置され、防護服もある。翌12日、福島第一原発が危険な状態になったため全町民が川内村へ避難することになり、災害対策本部はそのままの状態で放置されたのだった。

 ことしは、東日本大震災から10年という節目の年であることから、あの出来事を記憶にとどめるためのさまざまな動きを目にする。昨年開かれるはずだった東京オリンピックに合わせるかたちでオープンした公的な「東日本大震災・原子力災害伝承館」(県)、同じく「いわき震災伝承みらい館」(市)。ことしになってからは民間の「原子力災害考証館」(いわき市)、「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」(楢葉町)が開設された。そうした流れのなかで施設や催しを巡り、さまざまな人に「あれから10年」を聞いている。
 震災や原子力災害というのはさまざまな側面や背景を持っていて、一人ひとりの体験やとらえ方が違う。それを背負い、痛みや糧になって人生として歩を進めていく。だから、単純なキーワードやイメージでとらえることなどできない。それぞれの現状やこころを見つめ、どう寄り添えるのかを考えなければならない。東電や行政は、そうした微妙なひだのようなものを、わかろうとしない。
 
 4月16日、双葉町の原子力災害伝承館で人肌が感じられないスマートな展示を見た帰りに富岡町に寄り、夜の森の桜並木の下でたたずんだあと、廃墟になってしまった富岡高校の前に立った。あの日、町民が混乱し、災害対策本部では職員たちが情報の把握と対応に追われていた町。それから10年が過ぎ、町はすっかり変わってしまったというのに、桜は同じ場所にじっとしていて何も変わらずに咲き誇り、人々が集っている。
 この10年、「復興」を旗印に巨額な国家予算が投入され、震災の記憶や痛みがどんどんわきに追いやられた。目にふれないように、1日も早く忘れるように。でも、ここは流されずに立ち止まろう。目をこらして何が本当のことかを自問し続けよう。自分の足で立ち、眼で見、耳で聞いて、未来に何を伝えるかを考えよう。ごまかされてはいけない。


 特集 あれから10年 みらいに伝える

 東日本大震災と原発事故から10年。さまざまな施設がオープンし、催しが開かれた。震災や原発事故から何を切り取り、伝えるのか。それはとても難しい。さまざまな施設を訪ね、その関係者などに話を聞いた。未来に何を伝えますか。

東日本大震災・原子力災害伝承館学芸員 瀬戸 真之さんのはなし

 瀬戸さんは「東日本大震災・原子力災害伝承館」に二人いる学芸員のうちの一人。2017年から資料収集に関わっている。伝承館については「なまぬるい」などの感想も寄せられるなかで、「どんどんリニュールアルをして、何回でも来てもらえるような施設にしたい」と話す。

いわき震災伝承みらい館のこと

 市が薄磯地区につくった「みらい館」の展示は、時系列で事実を偏らずに伝えることがポリシー。語り部の話を聞くスケジュールを組み、特別展示として豊間中で被災した「奇跡のピアノ」が置かれている。

福島県立博物館学芸員 筑波 匡介さんのはなし

 企画展「震災遺産を考える――次の10年へつなぐために」が3月中旬まで、福島県立博物館で開かれた。担当した学芸員の筑波匡介さんに、震災遺産や震災の伝え方などについて聞いた。

原子力災害考証館 furusatoのこと

 いわき市常磐湯本町で旅館「古滝屋」を営む里見喜生さんは3月中旬、旅館の1室に「原子力災害考証館 furusato」を開設した。原発事故が地域にもたらした、さまざまな視点で伝える手づくり展示室で、考えるきっかけにしてほしいという。

伝言館と非核の火のこと

 楢葉町の宝鏡寺境内にできた「伝言館」は原子力災害を知らせるための施設。さらに東京・上野の東照宮で30年にわたって灯されていた広島由来の「原爆の火」が移され、「非核の火」として境内で燃えている。

 

いわきピアノプラザ代表 遠藤 洋さんのはなし

「奇跡のピアノ」と呼ばれている、震災で津波に遭った豊間中学校のグランドピアノ。再起不能と思われたそのピアノを修理し、復活させた遠藤洋さんに、奇跡のピアノとのこの10年を聞いた。

「奇跡のピアノ」の歌のこと
 球磨村の渡小学校ピアノのこと

 記事

清水市長が公約を発表

 秋の市長選に向けて清水敏男市長が正式に出馬表明をし、「災害に強いまちをめざす」ための消職職員の増員や平支所の設置などを公約として発表した。


いわき市民訴訟の地裁判決について

 原告団長 伊東 達也さんのはなし

 東京電力の福島第一原発の事故をめぐり、避難時事区域外だったいわき市の住民が国と東電に約26億円7100万円の賠償を求めていた「いわき市民訴訟」の判決が3月26日、福島地裁いわき支部で行われた。原告団長の伊東達也さんに8年に及ぶ地裁での裁判と判決、今後などについて聞いた。

 連載

新連載
時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(1)
はじめに


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(32) ニワトコ


ひとりぼっちのあいつ(13) 新妻 和之
新しい血を求めて


DAY AFTER TOMORROW(218) 日比野 克彦
火と水のこと

 

 コラム

ストリートオルガン(160) 大越章子
豊間中のピアノの10年
あちこちに出かけて震災を伝える