第446号

446号
2021年9月30日

   

海洋放出の決定から半年過ぎたが
汚染水問題に進展はなくより不信感がつのっている

 こんなに増えてきたのは、ここ4、5年くらいかな。震災前にも日に3、40匹はかかっていたけれど、年々、水温が高くなっているから少しずつ北上しているんだと思う。ただ、いわきでも獲れるのは南の方で、久之浜辺りでは少ないみたい。たぶん温暖化なんだろうね。魚も南日本なんかで獲れていたものが、こっちに回ってきているんだよね。きょうも1匹、名前はわからないけれど、変わったカワハギみたいで口がとんがっているやつ(チョウチョウウオ)がかかっていた。

 いわきの海でこのところ好漁の伊勢エビについて尋ねると、漁業者はそう教えてくれた。そして次のように続けた。

 いままで獲れていたのに減ったものもある。例えば、ヒラガニはほとんど獲れない。逆にいままで数匹だったワタリガニが、かかる時は何百匹と獲れる。結局、黒潮が強くなってきていて、南の魚がこっちに入り込んでいる。オキアミは2000年ごろから獲れていないし、コウナゴも全然獲れない。
 サバはここ何年かかなり回復して、いままでにないくらい増えた。去年辺りはマイワシも結構いたけれど、今年はまったく見られない。その年の潮の関係で微妙に来る魚が違うから。季節感も少しずつズレていて、震災前と比べて半月から1カ月うしろにずれてきている感じがする。
 
 ひとしきり海のはなしを聞いたあと、福島第一原発の敷地内のタンクにたまり続けているトリチウムなどを含む汚染水の海洋放出についても尋ねてみた。
 
 自民党の総裁選があるでしょう。その結果でどういうことになるんだか。原発反対派の河野太郎さんに環境大臣の小泉進次郎さんがついて、選挙結果によっては微妙に変わってくるんじゃないかと思う。それでも自民党自体のいままでの流れもあるし、海洋放出を覆すとこともなかなかできないだろうけれど…。
 この間、岩盤をくり抜いて1kmの海底トンネルを造って、そこから海洋放出するという東電の説明を受けた。みんなの意見を聞いてから進めればいいのに、一方的に「こうします」という話だよ。だからいつも漁業者の反発を買っているのに、なおさらそういうことをする。
 柏崎刈羽の6号機や7号機、それに福島第一原発もまた、ずさんなことをして騒がれている。結局、東電の気質はごまかしたり、隠したりなんだ。
 1km先から海に流しても、敷地から流すのと同じでしょう。雨水などをいま、敷地内の北側と南側から流しているけれど、海に入る前のものと入ったものの数値は全然違う。1km先なんて船で行かないと、測定しようとしてもだれも簡単に測れない。それに流しているかどうかもわからない。
 膨大な金をかけてトンネルを造るなら、トリチウムを除去する装置の開発に力を入れたらいいと思う。除去できたものを流すのなら、反対する人はいないはず。3、40年かかるという廃炉作業を終えるまで、建屋は永久に冷やしていかないといけない。その間、タンクの水はたまり続けるから。
 建屋のなかにはものすごい数値の放射能がたまった水がある。それが万が一、漏れた時にはどうするんだろう。
 
 そう言って漁業者はため息をついた。政府が海洋放出する方針を決めてから半年過ぎたが、汚染水問題に進展はなく、より東電への不信感がつのっている。


 特集 海のはなし 伊勢エビから

 いわき沖の海で漁獲交代が進んでいる。オキアミやコウナゴが揚がらず、数年前から伊勢エビが獲れるようになった。南方系の魚も網にかかる。そうした減少は海水温上昇の影響なのか。海洋研究センターやアクアマリンふくしま、漁師さんなどに話を聞き、海で何が起こっているのかを取材した。

 


「ウロコジュウ」 金成 勝弘さんのはなし
 伊勢エビ天丼が人気メニューに

小名浜機船底曳網漁協 中野 聡さんのはなし
 黒潮が強いのでサンマが来ない

アクアマリンふくしま 松崎 浩二さんのはなし
 夏の水温が高く南の魚がかかる

 

 記事

海洋放出をどう思いますか⑦
 
いわきの漁業者
 次の世代、また次の世代に影響する


福島臨海鉄道の「浜の駅 おなりん」が閉店

「浜の駅 おなりん」が閉店した。その間わずか1年半。コロナ禍で入場者が伸びず、オリジナルグッズも思うように売れなかった。福島臨海鉄道の歴史と合わせて調べた。


日々の本棚

『地球の生物多様性詩歌集』
  編 鈴木比佐雄 座馬 寛彦 鈴木 光影
  コールサック社・1980円(税込)


MY WAY 吉田 勉子さんのこと
番外編 傘寿記念の個展


市民測定室だより(29)
こどもドックてちょう


映画「MINAMATAミナマタ」のこと
水俣でのスミスを描く


投稿 東海第二原発の再稼働を止める会共同代表 先﨑 千尋さん
『原子力村中枢部での体験から10年の葛藤で掴んだ事故原因』を読んで
 原子力村からの勇気ある発言

 

 連載

戸惑いと嘘(70) 内山田 康
幾度も越えられた無数の浜辺(2)


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(43)ヘクソカズラ


ひとりぼっちのあいつ(24) 新妻 和之
「あしたのジョー」再起第一戦


時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(12)
其の十一 不明門

 コラム

月刊Chronicle 安竜 昌弘

忖度の底流
ジャーナリズムとは 個が立脚して 天下に論を 吐くことを指す。(デイヴィッド・ハルバースタム)