451号 2021年12月15日 |
だれが権力を監視するのか
ことしも、あと半月を残すだけになった。街路樹の葉が落ち、街には落ち葉が目立つ。16年にわたって良識の政治を行ってきたドイツのアンゲラ・メルケル首相が、退任した。世界の羅針盤を失ったような寂しさがある。
メルケルさんは牧師の娘で、東ドイツで育った。大学で物理学を専攻し、東ベルリンの科学アカデミーで理論物理学を研究して物理学者になった。そして、ベルリンの壁が崩壊したあと政治家に転じ、2005年、首相に就任した。ドイツ初の女性首相で、51歳は最年少だった。
その政治基盤は、必ずしも盤石だったわけではない。しかしメルケル政権が長く続いたのは、揺るぎのない人道主義と環境に対する信念だろう。そこには東ドイツで育ったものとしての、自由への思いがあった。
ただ、原子力発電に関しては推進派で、稼働年数を延長する政策をとってきた。それが2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原発の事故によって、ドイツ国内で脱原発の気運が高まり、3月14日には計画の凍結を表明。すばやく脱原発に舵を切っている。そうした判断力、柔軟性こそが科学者であり、女性でもある「政治家メルケル」の真骨頂だったと思う。
メルケルさんは、12月2日夜にドイツ国防省で行われた退任式で流す曲を、自分で3曲選んだ。18世紀のキリスト教聖歌、戦後ドイツの人気女優・歌手であるヒルトガルト・クネフ(1925〜2002)の「わたしには赤いバラが雨のように」、そしてパンクロック歌手ニナ・ハーゲン(1955〜)の「カラーフィルムを忘れたのね」だった。
「カラーフィルムを忘れたのね」はメルケルさんが20歳だった1974年、東ドイツでヒットした。恋人がカメラに白黒フィルムを入れたため、記念すべき旅行の写真がカラーで残せなかった、と怒る若い女性の歌で、「当時の東ドイツの物不足の状況を表現した」とされている。選んだ理由を尋ねられたメルケルさんは「この曲は青春時代のハイライト。すべてがぴったりはまる」と説明したという。その容貌から支持者に「ムティ(お母さん)」と呼ばれているメルケルさんだが、その選曲には常識にとらわれない茶目っ気がある。そしてメルケルさんが青春時代を送った東ドイツの70年代を垣間見ることができる。
さて日本。安倍、菅という権力志向のタカ派政権が終わりを告げ、ハト派・宏池会の岸田政権へと移行した。言葉が空虚で食い足りないところがあるとはいえ、以前と比べると少しは心が穏やかでいられる。岸田さんという人はイメージと違って、案外したたかな「昼行灯(ひるあんどん)」なのかもしれない。
一方で、自民党の最大派閥を率い、メルケルさんと同い年の安倍さんは、よせばいいのに積極的にメディアに登場し、中国の脅威や国防のあり方、憲法改正の必要性を力説している。最大野党の立憲民主党も「野党は批判ばかり」という声に媚びてトーンダウンし、立ち位置を真ん中に軌道修正しようとしている。
そうした動きを見ながら、「批判は聞きたくない」という風潮に違和感を覚える。おかしいこと、間違っていることは指摘して明らかにし、一刻も早く軌道修正しなければならない。いま、「権力の監視役をだれが担うのか」という言葉を胸に刻まなけれならない。
特集 理解を深めるために 2 海洋放出問題 |
これ以上海を汚すな!市民会議(織田千代、佐藤和良共同代表)と経産省資源エネルギー庁の担当者との3回目の「廃炉・汚染水 説明意見交換会」が11月27日、ラトブ6階のいわき産業創造館で開かれた。タンクにためられているトリチウムなどを含む汚染水、海洋放出、陸上保管、県民公聴会の開催などをテーマに市民会議のメンバーが疑問を投げかけ、資源エネルギー庁原発事故収束対応室長の福田光紀さんが答え、説明した。
タンクに貯蔵された汚染水の現状
意見交換会での市民会議と国の主張
トリチウムについて
海洋放出の政府決定について
タンクの陸上保管について
廃炉の最終形について
公聴会の開催について
記事 |
私の見方
ポストコロナの時代を生きる
設計専攻建築士 小野田 博さん(投稿)
高橋源一郎さんのはなし
作家の高橋源一郎さんの後援会が11月28日、いわき市立草野心平記念文学館で開かれた。演題は「未来から来た詩人 草野心平」。その内容を紹介する。
中部博さんのはなし(上)
西岡恭蔵とその時代
『プカプカ 西岡恭蔵伝』を上梓したノンフィクション作家・中部博さんが講師となり、11月23日に蔵カフェ大学(備中屋本家斎菊)で話した「現代の吟遊詩人・西岡恭蔵を語る」を要約してまとめた。今回はその(上)で、次回は(下)を紹介する。
日々の本棚
『プカプカ 西岡恭蔵伝』
中部 博 著
小学館刊・1980円(税込)
1999年4月に50歳で自死してしまった西岡恭蔵の人生とカウンターカルチャーとして出てきたフォークの歴史が語られている。
シネマ帖
梅切らぬバカ
自閉症の息子と将来を心配しながら日々を送る母の思いを中心に、近隣住民との関わり合い方を剪定できずに路地に出てしまっている梅の木を息子と重ねている映画。障害を持つ人に対する社会の壁は、まだ厚くて高い。
連載 |
戸惑いと嘘(75) 内山田 康
神の死と主権の秘密(1)
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(48)ヒノキ
ひとりぼっちのあいつ(29) 新妻 和之
「帰さない」
時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(17)
其の十六 久保町
DAY AFTER TOMORROW(226) 日比野 克彦
日比野研究室
いったん区切りをつけさらなる発展へ
コラム |
ストリートオルガン(166) 大越 章子
Father tree
万本桜の山に家族で植えたヤマザクラ