第467号

467号
2022年8月15日
郡山市のビックパレットで開かれている「バンクシーって誰?展」に展示されている「狙われた鳩」

 

武器ではなくアートで現状を変えていく

     パレスチナのベツレヘム市街の建物の壁に、イギリス・ロンドンを中心に世界で活躍しているストリートアーティストのバンクシーが描いた「狙われた鳩」がある。オリーブをくわえたその鳩は『旧約聖書』の「ノアの方舟」を想像させる。
 人類の堕落を怒った神が大洪水を起こした際、ノアは命じられた通りに方舟を造って、家族と地球上のすべての動物をつがいで乗せた。洪水は40日続き、方舟はアララト山に漂着。ノアは地上の様子を探るために鳩を飛ばすが、すぐに戻ってきた。7日後、再び放した鳩はオリーブをくわえて戻ってきた。さらに七日後、また飛ばしてみると鳩は戻らず、ノアは近くに上陸できる新天地があり、世界に平和が訪れたことを知る。
 オリーブや鳩は世界共通の平和のシンボル。国連のマークにも、オリーブの枝が描かれている。ところがバンクシーが描いた鳩は防弾チョッキを着て、胸には銃が狙いを定めた照準マークがあり、いまにも撃ち落とされそうな緊張感と、平和が脅かされる危機感が漂っている。
 ベツレヘムはキリストの生誕地。鳩が描かれた壁の前にはイスラエル軍の監視塔があって、鳩の壁にも弾痕が多く残っているという。

 バンクシーは1990年代、少年時代を過ごしたイギリスのブリストルで、街をキャンバスに描き始めた。警察に見つかる前に素早く仕上げるため、2000年ごろからは型紙にスプレーを吹きつけるステンシルの技法で制作するようになった。風刺的な作品が多く、反戦や非暴力、反消費主義、難民問題などの社会的なメッセージをこめ、正体不明の謎につつまれたアーティストとしていまも描き続けている。
 パレスチナの街で描き始めたのは2003年、鳩の絵と同じベツレヘムのガソリンスタンドの大きな壁に、投げつけようとする石の代わりに花束を持たせた男の姿を描いた。その2年後には、イスラエル人とパレスチナ人の居住区を隔てる巨大な壁に風船につかまって壁を乗り越えていく少女など、さらに2年後「狙われた鳩」が描かれた。
 ストリートアートなので消されたり、上書きされたりすることも多く、特に分離壁に描かれた作品はほとんど現存しない。それでもバンクシーは定期的にパレスチナを訪ね、分離壁に新作を描いているという。そこには「武器でなくアートで現状を変えていく」という思いがある。

 


 特集 それぞれの戦争

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 手島セツさんのはなし
    むのたけじさんの言葉
   ギャラリー見てある記    エッセイスト佐野洋子展
   水木しげるの戦争
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   絵本『旅のネコと神社のクスノキ』のこと

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メトロノーム  旧統一教会報道

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新型コロナウイルスのこと 15 過去最高の感染者

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見え隠れする傷跡たちの間で⑤


時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(32)
終わりに


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(64)ネハジキ


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ある島にて  陸上のことを忘れた海中での時間


 コラム

ストリートオルガン(174) 大越 章子

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ささやかな生きる喜びを届ける