第493号

493号
2023年9月15日
   横断幕やのぼり旗を掲げて福島地方裁判所に向かう原告と代理人の弁護士たち 2023.9.8

  海洋放出はこの国のあり方を左右する問題で

     民主主義と正義を問う裁判です

 

 「汚染水の海洋投棄反対」。9月8日午後1時半近く、福島市市民会館から福島地方裁判所に向かう通りに人々の声が響いた。
 この日、東京電力が福島第一原発の敷地内のタンクにたまっている処理汚染水の海洋放出を始めたことに、福島県を中心に宮城、岩手、茨城、千葉、東京の6都県の住民や漁業関係者など151人が、国と東電に海洋放出の差し止めなどを求める訴えを福島地方裁判所に起こした。
 台風13号が向かってきていて小雨が降るなか、原告と支援者たちは「海を汚さないで! ALPS処理汚染水差止め訴訟」の横断幕やのぼり旗を掲げ、「海洋投棄反対」と声を上げながら行進し、裁判所に訴状を提出した。

 12年前の原発事故は国の根幹をも揺るがす大事故だった。幸運が重なってなんとか現状で収まっているが、いまだに多くの人々が放射能被害に苦しんでいる。それなのに国や東電は福島県漁連との約束を守らず、原発事故の賠償請求裁判でも「放射能被害を2度と繰り返さない」と謝罪しているのに、処理汚染水の海洋放出を強行した。
 「薄めて流すから大丈夫」と国や東電は説明するが、薄める水は海水で、そこに処理汚染水を含めて、また海に戻す。だから放射性物質の総量はもちろん絶対量も変わらない。処理汚染水はもともと原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)にふれた水で、トリチウム以外の放射性物質も含まれている。しかも、その処理汚染水に何がどれだけ含まれているかは明らかにされていない。トリチウムだって、人体への影響も科学的知見はさまざまだ。
 海洋放出は30年から40年続くと説明されているが、わかりやすく言えば廃炉が終了するまで続く。デブリ取り出しの見通しも立っていないなか、海洋放出はいつ終わるのかわからない。しかもまだ、デブリがある建屋への地下水流入を止める抜本的な対策もとられていない。
 漁業者や住民がさまざまな疑問を国や東電に質問しても、いつも説明は通り一遍で回答になっていず、堂々巡りが続いた。でも裁判はそうはいかない。的をはずさないで答える義務がある。A4判・40ページの訴状には、さまざまな人々の思いが詰め込まれている。

 事故を起こした原発からの処理汚染水の海洋放出は、世界でも類がない。それも意識的に流している。海洋放出が始まったいまも、福島の人々はもちろん、日本の多くの人たち、世界中の人たちも「海洋放出はやめるのがいい」と思っている。
 訴訟代理人の弁護士の広田次男さんと河合弘之さんは「海洋放出はこの国のあり方を左右する問題で、民主主義と正義を問う裁判」と話す。この裁判は原告だけでなく、3・11を経験したみんなの裁判でもある。

 


 特集 声を上げよう

 

 国と東電が8月24日にトリチウムなどを含む汚染水を流してからも、海洋放出に反対する動きが続いている。8月27日には「国・東電による海洋放出反対 8・27全国行動」がイオンモール小名浜前で開かれ、9月8日には福島県の漁業者や住民など151人が国と東電を相手取り、放出の差し止めを求める訴訟を福島地裁に起こした。

8・27全国行動
福島の海を全国の仲間たちと守ろう
立憲民主党、日本共産党、社会民主党、韓国の国会議員、漁業者などが党派を超えて「放出対」の声を上げた。
新地町の漁業者 小野春男さん
韓国野党の国会議員と漁業者
立憲民主党参議院議員 石垣のりこさん
日本共産党書記局長 小池晃さん
社会民主党党首 福島瑞穂さん

ALPS処理汚染水放出差止訴訟
原因者が流していいのですか
訴訟代理人で弁護士の広田次男さん、河合弘之さんなどが福島地裁に訴状を提出、受理された。原告団は福島市民会館から福島地裁まで「海を汚さないで! ALPS処理汚染水放出差止訴訟」の横断幕などを掲げて行進し、訴状提出後に集会や記者会見を開いた。

どうして裁判をするのか 訴訟代理人 弁護士 広田次男さん
裁判の意義       訴訟代理人 弁護士 河合弘之さん
訴状の内容について         弁護士 北村賢二郎さん

原告のはなし
漁業者(メッセージ)
織田千代さん
大賀あや子さん
佐藤和良さん
後藤江美子さん

横断幕などを掲げての行進後、福島地方裁判所前で思いを語る広田次男弁護士
 記事

PERSONA 川石収集家 堀 正人さん



 連載

DAY AFTER TOMORROW(247) 日比野 克彦
TRTCHK
[あーーーーーー]という響きによる水平方向のつながり 

阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(86)カキツバタ