499号 2023年12月15日 |
三権分立が機能しないこの国の危うさ
NHKの連続テレビ小説の「ブギウギ」で、福来スズ子が戦死した弟のために「大空の弟」を歌う。スズ子役を好演している趣理の歌が見事で、打ちひしがれた魂の叫びのように聞こえた。
安保法制が違憲かどうかを問う「ふくしま平和訴訟」の控訴審判決の言い渡しが12月5日、仙台高裁であった。今年5月、「安保法制は憲法違反」とする憲法学者、長谷部恭男さん(早稲田大学教授)の証人尋問が行われ、小林久起裁判長自らが30分以上も異例の補充尋問をしたこともあって、違憲判決への期待が高まっていた。しかし、「憲法九条に明白に違反するとは言えない」として控訴は棄却され、高裁前に「不当判決」の旗が掲げられた。近くの通りでは銀杏の葉が静かに落ちていた。
この裁判は2016年から始まり、福島地裁いわき支部での一審を何回か傍聴した。印象的だったのは呑川泰司さんの意見陳述で、自らの地獄のような軍隊生活を切々と語った。規律を重んじる軍隊でみんなと同じように動けなかった呑川さんは、上官から数え切れないほどの体罰を受けた。そして「戦争は人間を人間でなくしてしまう。2度と再び戦争を起こしてはならない」と訴えた。その呑川さんも2年前の5月15日、95歳で他界した。この裁判で証人たちは、戦争がいかに理不尽で馬鹿馬鹿しいか、平和な日常がいかに尊くありがたいかを、語り続けた。それは不戦のバトンと言えた。
7年にわたって一審、控訴審と闘い続けてきた広田次男弁護士は判決後、「残念ながら全面敗訴といえる。この判決文は、長谷部尋問を逆手にとって行政のやり方を肯定している。裁判所が政府の追認機関に成り下がった。わたしたちが子や孫に残してやらなければならないのは平和。ガザやウクライナなど世界の情勢を見ればそれは明らかだと思う。これからも平和を守るために最大限の努力をしていく」と絞り出すように話した。
敗戦から78年がたち、ほとんどが戦争を知らない世代になった。日本国憲法の前文には「われらとわれらの子孫のために、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意する」とある。今回の判決の無念さや「ブギウギ」でのスズ子の慟哭を胸に刻みながらも、三権分立が機能しないこの国の危うさを思わざるを得ない。
特集 安保法制違憲 ふくしま平和訴訟 |
安保法制が違憲かどうかを問う「福島敬和訴訟」の控訴審判決の言い渡しが12月5日、仙台高裁であり、小林久起裁判長は「憲法9乗に明白に違反するとは言えない」として控訴を棄却した。その経過を追いながら7年にわたって闘ってきた広田次男弁護士の思いや弁護士たちの声を紹介する。
裁判所は政府にお墨付きを与える機関ではない
経緯
長谷部尋問
判決
三権分立ではなく三権連立
報告会での発言
福田護弁護士のはなし
伊藤真弁護士のはなし
松田幸子弁護士のはなし
高裁判決を取材して
「ブギウギ」で歌われた「大空の弟」のこと
記事 |
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バスが走らない地域が増えていく
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シネマ帖 燃え上がる女性記者たち
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日々の本棚
『母、アンナ』
ヴェーラ・ポリトコフスカヤ、サーラ・ジュディチュ著
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連載 |
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(92)ナツメ
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芸術の秋
DAY AFTER TOMORROW(250) 日比野 克彦
250回目のコラム
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