第502号

502号
2024年1月31日

       時津山を知っていますか

 大相撲初場所が終盤に入っている。気になるのは、やっぱり福島市出身の若元春と若隆景の勝敗で、夕方にNHKの相撲放送をつけることが多い。11日目までの成績は、関脇から東前頭筆頭に落ちた若元春が八8勝3敗、右膝の怪我で4場所休場して先場所から復帰した西幕下筆頭の若隆景は6連勝している。この新聞が手元に届いたころにはもう、初場所は終わっている。

 いわき出身の相撲取りというと、70代半ば以上の人なら「時津山」を思い浮かべるだろう。平のまちなか出身と聞くので「88年前の平のまちの地図」を持って町歩きしながら、幼少の時津山が過ごした地を探した。
 二町目のつるや旅館(現在のワタナベ時計店)があった辺りらしいということだが、それ以上はわからず、いわき総合図書館に相談した。すると小沼盛一さん著の『郷土力士物語』を紹介してくれた。昭和51年に作られた冊子で、福島県出身の力士たちのことが1人ずつ詳しく書かれている。
 それによると、時津山(本名・藁谷仁一)は大正14年、東京府荏原郡(現在の東京都品川区)生まれ。父の藁谷直重は明治14年生まれで、現在のいわき市平二町目32にあった豆腐屋の長男。若い時に力士だったという。母のハルは秋田県八郎潟の出身。直重とハルは東京で出会い、仁一が生まれた。
 ところがハルは病気の直重と赤ちゃんの仁一を置いて蒸発。直重は仁一を連れて平に帰り、昭和2年に46歳で亡くなった。祖父母が仁一をかわいがってくれたが、直重の後を追うように2週間後、祖父も亡くなってしまった。
 やがて仁一は叔父や叔母の家を転々とさせられ、最後に沖縄に住む叔父の精七に引き取られた。精七もかつて力士だった。高等小学校を卒業した仁一はある日、精七に「大阪見物をさせてやる」と言われ、大阪の時津風に弟子入りさせられた。才能を見抜いた時津風は昭和15年、友人で東京の立浪に預けた。
 当時、立浪部屋には横綱の双葉山、大関の羽黒山、関脇の名寄岩など人気力士が多くいた。仁一はその年、「平」の四股名で初土俵を踏んだが、なかなかやる気の出ないまま、召集令状が届き、会津若松の部隊に入隊。敗戦後、立浪部屋に戻り、四股名を「時津波」に改め、1年ぶりに土俵に立った。
 翌昭和21年11月に七戦全勝で幕下優勝、翌年6月に新十両、さらに2年後には新入幕を果たし、25年に時津山と改名した。2年後、東小結、その2年後には東関脇と、番付を駆け上っていった。そして28年5月、平幕(東前頭六枚目)で全勝優勝した。
 その後も準優勝するなど大関昇進を目前としながら、かなわなかった。昭和36年3月、引退し、年寄押尾川を襲名。8年後、肺がんのため43歳で亡くなった。

 昭和28年の全勝優勝後、故郷に凱旋した時津山を平駅(現在のいわき駅)前で、2000人ほどが旗を振って出迎えた。翌日、時津山は平一小の校庭に築かれた土俵で、堂々とした立派な姿を披露したという。平のまちを歩きながら、時津山のことも調べていけたらいい。


 特集 88年前の地図

「88年前の地図」の第3弾は気になる店を訪ねてその歴史や思いを取材した。

責任を持ってその後も対応する
ワタナベ時計店 渡辺ベテル子さんのはなし

漁業が盛んだったころは万祝も
柏屋染工所 阿部弘さんのはなし

絹製品が主体の染め物屋
戦後、染め替えが多くなる
神谷染物店 神谷哲也さんのはなし

大きな打撃だった大黒屋の閉店
西村屋薬局 鈴木鐶一郎さんのはなし

店が減り続けっている
リビングギャラリーせきはら 関原伸子さんのはなし

暮らしの提案もする
カノオダの閉店

ワタナベ時計店の渡辺テル子さん
 記事

3・11の教訓は生かされたのか
福島在住ジャーナリスト 藍原寛子

元旦の午後に起きた能登半島地震を取材するため、1月5日から9日まで、オーストラリアの公共放送SBSの記者とともに現地に入った藍原さん。さまざまな緊張のなか、現場から見えてきた課題について書いてもらった。

写真 藍原寛子

25年ぶりのいわき ジョンさんとジルさんのはなし
変わっていないのは心の温かさ
 
いわきでALT(外国語指導助手)や国際交流院をしていたジョン・デクラークさん(62)と夫人のジルさん(62)が1月4日から18日まで、いわき市の民家に滞在した。25年ぶりのいわき。この25年のこと、久しぶりのいわきの感想を聞いた。


シネマ帖
RERFECT DAYAS
ヴィム・ベンダース監督が役所広司を使って撮った、公共トイレ清掃員の日々。主人公「平山」の精神的な豊かさや使われている音楽などについても書いた。



 連載

阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(95)チカラシバ

木漏れ日随想(12)佐藤 晟雄
戦後の歌謡史に残るリンゴの歌


 コラム

刊Chronicle 安竜 昌弘

反省ばかり 

突然パソコンがロック ウイルス感染? 実はアメリカの詐欺集団