503号 2024年2月15日 |
海に流し続けていいのげ
東京電力が昨年8月に海洋放出を始めるころ、1枚のCDが発売された。歌手のKOUKIさんが歌う「海に流していいのげ」。歌は「ゆったっぺー ゆったっぺー 海には流さねーて ゆったっぺー 福島 助けっと ゆったっぺー」と、いわき弁のせりふで始まる。
作詞した新田目大介さん(60)は東京生まれで、現在も東京に住んでいるが、両親はいわき市出身。父の実家は四倉町で、国道6号線をはさんで四倉海岸が広がっていて、祖父は父に、父は大介さんたち子どもに海で泳ぎを教えた。
そのため大介さんは、海で2、3㎞泳ぐなら友達に負けない自信がある。けれどグーグルマップで見ると、事故を起こした原発から四倉海岸まで約35㎞。とても近くて、海洋放出したら娘や息子に「1㎞泳いでみて」とは言えないし、孫にも自慢の泳ぎを教えられない。そういう思いのなかで書いた詩だった。
「海に流すのは来年」という新聞記事を信じてのんびり構えていたが、急に「夏の間に開始」ということになり、慌てて作った。作曲は妻で、作曲家の新田目聖子さん。大介さんの注文通りロック調に仕上げ、CDは聖子さん自身のレコード会社「ワールドミュージック」で製作した。
中学生のころ、大介さんは自ら作詞作曲した歌を文化祭で歌っていた。音楽の先生は、自宅によく遊びに来ていた作曲家の山本直純さん(故人)。父の自由学園時代の同級生で、遊びに来ると父とふたり、主にクラシックをいろんな楽器で演奏していた。ある日、大介さんが「歌謡曲を何か弾いて」とお願いすると、映画「男はつらいよ」のテーマ曲を、せりふを入れてピアノで弾いてくれた。
大介さんは自由学園高等科に進学後、音楽に自信をなくしてしまったが、聖子さんとの結婚を機に再び作詞を始めた。それに聖子さんが曲をつけ、松平健さんが新春の新歌舞伎座の公演で一曲目に歌った。その「マツケンの大繁盛」がデビュー曲になり、これまでにCDを10枚ほど出している。
音楽の師の影響なのか、大介さんの詞はせりふが多い。「海に流していいのげ」にも6カ所、すべていわき弁で入っていて、いわきだけでなく浜通りで暮らす人々と、海の生きものたちの思いを代弁している。
「流したら もー取り返しつかね 放射能だよ これからずっと流すつもりげ もー福島だけの問題じゃね 漁業だけの問題でもね 海を ほんとうに汚していいのげ……」と。多くの人たちの本音が詰まった、明るくノリのいい歌は、未来への贈りものでもある。
大介さんは自由学園最高学部を卒業後、海洋工学のエンジニアの仕事をしてきた。このところは脱原発を目指して、洋上風力発電工事に携わっている。海洋放出が開始され、いま、第2弾のCDの製作を進めている
特集 湯ノ岳ものがたり |
湯ノ岳は標高593.6mの信仰の山。昔から山伏などが修行した山として知られている。道が雪に残る7日、湯ノ岳を訪ね、いまの物語を拾った。
「旅人牧舎。」のはなし
馬とふれあい、いのちを感じてほしい
牧舎を営んでいるのは装蹄師の八木沢一気さん(30)。引退競走馬2頭とポニー1頭、柳3頭を飼っている。場所は元レストランだった湯ノ岳中腹。さまざまな人たちが交流できるコミュニケ―ションの場にしたい、との思いがある。
湯の岳山荘のこと
なくしてしまうのは惜しい
市営施設だった湯の岳山荘の用途廃止で存続の危機を迎えている。引き受けてくれる民間業者を募っているが、現状は厳しいという。
湯ノ岳の今と昔
風力発電の工事で一般書が減った
湯のだけの中腹にアル石橋さん宅を訪ね、周辺の今と昔について聞いた。風力発電の工事で一般車両の数が減っている。
記事 |
88年の地図4
問屋や市場として栄えた四町目
平の四町目は比較的古い店が残っている。宍戸屋、丸伊酒店、関内薬局を訪ね、店の歴史やまちへの思いを聞いた。
松崎倫久さん(宍戸屋)のはなし
魚の問屋から乾物屋へ
篠原敬子さん(丸伊酒店)のはなし
この辺りは問屋街でした
関内太輝さん(関内薬局)のはなし
まちがたり
Bag gallery VEGA
駅前は賑やかで活気があった
いわき駅前のラトブの2階にある「Bag gallery VEGA」が2月末で閉店することになった。平ステーションビル「ヤンヤン」時代から50年近く平の駅前で商売してきた店主の伊藤孝雄さん(72)に話を聞いた。
PERSONA 武藤比呂子さん 陶芸家 70歳
楽しいもの、自分で作りたいものをゆっくり作る
クラシックな子供服をモチーフにした「掛け花入れ」や陶器と毛糸によるピンクッションなどを作る武藤さんの陶芸人生を聞いた。
連載 |
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(96)シカラシ
木漏れ日随想(13)佐藤 晟雄
友よ
DAY AFTER TOMORROW(252) 日比野 克彦
振れて動く
視覚と聴覚の共通項である振動を共有する
コラム |
ストリートオルガン(187) 大越 章子
山の上ホテル
東京の真中にかういう静かな宿があるとは