519号 2024年10月15日 |

トリチウムは本当に危険性が低いのか
9回目の海洋放出がそろそろ終了する(10月9日現在)。これまでとほぼ同量の約7800tのトリチウムなどを含む汚染水を、海水で薄めて海に流している。8回目まで放出量は62630tほどになっている。
本年度の計画ではタンク54基分を放出する予定だが、いまも原発事故で溶け落ちた核燃料デブリを冷やし続けているため、新たにタンク36基のトリチウムなどを含む汚染水がたまる予定で、差し引いて8基しか減らない。それにトリチウムのほかにも核種は含まれているから、海洋放出によるそれぞれの核種の累積値はどんどん増えている。
そのなかで環境放射能の研究者の天野光さんは、アメリカのエネルギー環境研究所所長のアルジュン・マクジャニさんの著書『トリチウムの危険性を探る』を知人たちと翻訳して、出版した。危険性が低いと言われているトリチウムだが、本当のところはどうなのかを多くの人に知ってほしいと思ったからだった。
マクジャニさん自身、放射線業界で軽んじられている核種としてのトリチウムの危険性を、もっと真剣に扱う必要があると認識し、それが2022年に『トリチウムの危険性を探る』を書くきっかけになった。それを読んだ天野さんは、トリチウムを総合的に捉えている本とわかり、翻訳したいと思ったという。
天野さんは日本原子力研究所で長年、トリチウムなどの環境放射能の測定と挙動解析に携わってきた。ほかに生体やDNAへの影響の視点から、放射線医学総合研究所で放射線発がん、がん細胞生物学などを専門とする崎山比早子さん、免疫学とミトコンドリアの研究をしている高垣洋太郎さんに声をかけ、得意分野をそれぞれ翻訳した。
微妙なところや難しいところは3人でディスカッションしながら作業を進め、英語の原文でわからないところは直接、マクジャニさんにメールで問い合わせ、完成までに1年かかった。
『トリチウムの危険性を探る』は八章で構成されている。「今なぜトリチウムなのか?」から始まり、トリチウムの特徴、環境へのトリチウム放出と濃度、移行経路と体内での残留時間、内部被曝の危険性、胎芽(胚)と胎児への影響、飲料水の摂取基準、まとめと考察にわかれている。
「今なぜトリチウムなのか?」の章では、トリチウムの危険性に細心の注意を払うべき理由を14項目挙げている。トリチウムは日常的に最も大量に放出される、最も一般的な放射性汚染物質であること、人工的に生成されたトリチウムは自然界にあるものをはるかに超えていること、核兵器に使われること、外部被曝より内部被曝がはるかに危険なこと、放射性物質でありながら普通の水と区別がつかないこと(一旦、体に取り込まれると隅々まで浸透する)、半減期が12・3年と長く、環境中に何十年も存在する。
また、トリチウムは胎盤を容易に通過、細胞質内の水を電離してミトコンドリアDNAに深刻な傷害を与えるプロセスを引き起こす、卵子や精子、精母細胞に影響を与える可能性がある、内部被ばくは非がん性疾患を発症させる可能性がある、トリチウムの危険性やリスクが過小評価されてきた――などだ。
これまでの被ばく体系は発がんをベースに線量評価のしくみがつくられてきたが、放射線の影響は発がんだけではない。いろんな病気の原因になっている。そこでマクジャニさんが特に強調しているのはミトコンドリア(すべての多細胞生物のエネルギーシステムの中核)と、胎児への影響。それに放射線と人工の環境有害物質が生体に及ぼす影響はメカニズムではほぼ同じだから、将来的に同じ土俵で評価すべきと主張している。
そして日本語版のあとがきでは「海洋放出を自らやめましょう」と、日本にメッセージを送っている。
天野さんは「トリチウムの問題を真っ正面から取り上げた本はこれまでなかったと思う。大袈裟でも過激でもなく、とても真面目に書いてある。内容が難しいかもしれないが、手元に置いて2回、3回と読み直すと、よくわかってくる」と話している。
特集 new born荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった |
いわき市立美術館で10月20日まで開かれている「new born荒井良二」展。6日には荒井さんが大勢の人を前に展示室を回ってギャラリートークをした。作品についての思いや考えを語り、質問にも答えた。その内容を紹介しながら荒井ワールドを旅する。
楽しく自由に、やりたいことをする
絵本の仕事
『あさになったので まどをあけますよ』と『きょうはそらにまるいつき』
「たいようオルガン」
山形じゃあにい
くまのクーちゃん
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日記
インスタレーション―逃げるこども
すべての人間に開かれている
いわき市立美術館主任学芸員 竹内啓子さんのはなし

記事 |
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「貢献の歴史」を胸に検証と改善をする
坂本竜太郎さん 自民新 44
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「原告適格がない」について反論
平穏生活権を侵害された
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連載 |
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