第535号

535号
2025年6月1日

 

      日曜夜のテレビドラマ「キャスター」(TBS系)が終わった。悪事を隠すために組織ぐるみで口をつぐむ。その裏には大きな権力と深い闇があり、弱いものたちが犠牲になる。それを阿部寛が演じるテレビ記者出身のキャスターが暴いていく。
 鋼のような結束で企業の秘密を守り続けてきた社員たちのなかには、良心の呵責に耐えられず苦しんでいる人もいる。このドラマでも、重大な企業秘密を頑なに守り続けてきた原子力関連施設の所長が、問題解明の鍵を握る1枚の写真を記者に手渡す。「どうしてですか」と尋ねると、晴れ晴れとした表情で「これまで、何も見ないように会社に尽くしてきました。それに嫌気がさしただけです」と答える。

 去年の11月から、いわき信用組合の問題が頭から離れない。不正融資の中心にいたとされる江尻次郎さんのところへはたまに訪ね、いわきの経済状況や体調管理のことなどについて話をしていたから「すべてが江尻の責任」という結論の出し方には「はたしてそうだろうか」と思うところもある。一番知りたいのは「なぜ重荷を背負う合併をして不正融資をし続けなければならなかったのか。その背景に何があるのか」ということなのだが、どの記事も、現象面をなぞった勧善懲悪的なものにとどまっている。

 木村守江福島県知事の県政汚職事件を『木村王国の崩壊』としてまとめた吉田慎一記者(朝日新聞)はあとがきで「この取材のなかで考えたのは、日々のニュース報道のことである。客観報道の名の下に『勧善懲悪』主義者になり過ぎてはいなかったか。事件の一過性にかくれて、ゆがんだ人間像を伝えてはいなかったか。(中略)線香花火のようなものではない、全体を踏まえた追跡報道の必要性を強く感じた」と書いた。
 この問題が明らかになってから、全体を俯瞰し、つながりなどに目を凝らしてきた。さらに歴史を紐解き、いわき信用組合が地域や庶民にとって、いかにかけがえのない存在であるかを知った。その、寄り添い続ける精神は、自らの財産を投げ打つ覚悟で倒産を回避した4代目理事長、新妻長蔵さんによって培われた。

 自らが依頼した第三者委員会の調べでさえ証拠隠滅を図り、あいまいな言葉で現実逃避をしようとする関係者たち。「このごに及んで何を隠そうとするのか。何を守ろうとしているのか。なぜ、この融資先に対して、異常ともいえる優遇措置をとるのか」という謎は残されたままですっきりしない。
 「貸しはがし」といった非情な手段をとらず、地域や市民と歩んできた、いわき信用組合。生き残って再生して行くにはまず、関係者それぞれが自ら語る勇気を持ち、膿を出し切らなければならない。そこからだろう。

 


 特集 いわき信用組合の不正融資問題

いわき信用組合の不正融資が明らかになり、理事長以下、ほとんどの役員が代わって出直しすることになった。そもそもは77年前に設立された「江名町信用組合」。それから市内全域の店舗展開を進め、つばさ信用組合と合併した。しかしそれをきっかけに巨額の不良債権を抱えるようになり、上部機関にわからないように不正融資が始まった。その歴史を追いながら、第三者委員会と本多洋八理事長の記者会見、質疑応答などを紹介する。

これまで
江名村を挙げて組合を設立
不退転の決意で倒産を回避
船出

始まりは郡山での見習奉公
人となり

小名浜に本店を移し拡大路線を敷く
再建へ

重しがはずれ主導権争い
暗雲と不正融資

2024年9月8日からのこと
Xへの投稿が発端
始まりはつばさ信用組合との合併
事実解明はいまだ不十分
組合内の膿を出し切る必要がある

あらまし
第三者委員会でわかったこと
隠そうとするとする体質
いわき信用組合のはなし

記者会見での質問
第三者委員会
いわき信用組合

5月30日に開かれた第三者委員会

 記事

まちがたり
ヤマニ本店の閉店
本屋を続けるため苦渋の決断をする

PERSONA(ペルソナ)
日本画科 桜井美知子さん 84歳
葛飾北斎の「絵は70歳から」に励まされ

 連載

阿武隈山地の絶滅危惧種 ⑫ 湯澤陽一
エゾヤハズゴケ 苔類 準絶滅危惧

木漏れ日随想(34)佐藤 晟雄
わたしが思う水戸学



DAY AFTER TOMORROW(268) 日比野 克彦
ルドンとヒビノ
そのまま残っているリアルなプロセスのアーカイブ

 コラム

ストリートオルガン(201) 大越 章子

出版記念イベント
剥き出しになったものと対峙し言葉を綴り続ける