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 昨年6月23日に千葉県犬吠埼灯台沖で発生した巻き網漁船「第五十八寿和丸」(135トン)の転覆沈没事故から1年がたった。そうしたなか、福島海上保安部は3日、漁労長を「操舵室に当直者を配置するなどの安全確認を怠った」として、業務上過失致死の疑いで被疑者死亡のまま地検いわき支部に書類送検した。さらに事故原因を「パラシュートアンカーで停泊中、立て続けに押し寄せた2度の高波によって沈没した可能性が高い」とした。いまも運輸安全委員会で調査が行われているが、今回の送検は関係者に暗い陰を落とさせた。この1年間の思いや現在の心境を船主である野崎哲さんに聞いた。

 13日に一周忌法要をして、28日には、奥さんが病気だった関係でひとりだけ残っていた漁労長の葬儀。黙祷して線香を手向け、確かに「1年が過ぎたんだな」とは思いますが、気持ち的にはすっきりしていません。1番は、17人の乗組員がなぜ亡くなったのか、原因が特定されないままでいいのか、という思いが強いからです。このままでは事故の教訓が得られないし、ノウハウも生まれない。すべてにおいて、のたうち回っている、という感じです。
 そうですね、確かに3日に海上保安部が発表した事故原因と漁労長の書類送検は、気持ちを沈み込ませました。送検理由は「事故当時、当直者を配置していなかったために避難誘導指示ができず、船室で休養中の船員16人を死亡させた過失がある」ということだそうですが、助かった船員は「見張りはいなかった」とは言っていないんです。避難途中に甲板長が機関長に対して「エンジンをかけてくれ」と言ったという証言がありますから、だれかは上にいたはずです。
 証言などによって明らかに過失があるというならば仕方ないのですが、その点についてはどうしても納得できない。たとえ、被疑者が死亡しているから、と不起訴になったとしても、嫌疑不十分のままの送検はおかしいと思うんです。弁護士に頼んで「嫌疑不十分」の一項を入れてもらいたい、という陳述書を地検に提出し、現在審議中です。
 事故原因についても、首をひねらざるを得ません。海上保安大学校(広島県呉市)による鑑定結果だそうですが、2度続けて6メートル級の大波と遭遇する可能性は100万分の1だといいます。海水の流入量、油の流出量の説明についても疑問が残ります。76トン程度の水では数十センチ沈むくらいだし、油まみれの遺体を目にしたら100や200リットルどころではなく、1000とか2000リットルと桁が違うはずです。
 どうしてこんなに都合よく、次から次と原因が出てくるのか。これでは「終わらせるべくして終わらせたのでは」という思いも湧いてきます。海難防止協会の主任専門員の方も「今の段階での海難原因の特定や責任追及は尚早のような気がします」とコメントしています。
 事故原因については、運輸安全委員会でも引き続き調査しているわけですが、「潜水調査は厳しい」という現実の壁に突き当たることが多いですね。ことしの1月22日に15万人弱の嘆願署名を添えて、関係機関に「事故原因究明のための潜水調査実施」を要望しました。
 すると6日後に運輸安全委員会が「漁船沈没事故に係る解析調査」の名目で公告しました。調査を外注したわけです。2月9日に国土交通省所管の独立行政法人・海上技術安全研究所が119万円で契約を結びました。あまりの金額の低さに愕然としました。「この金額で何ができるんだろう」という思いです。その後、人づてに聞いたところ、「事故当時の天候について解析を行った」とのことでした。
 運輸安全委員会は空(航空機)、陸(鉄道や車)、海(船)の事故について、その原因を調べます。これは実感なのですが、海、なかでも漁船の事故については、一番軽く見られているような気がしてなりません。

 商売の方は、従業員、乗組員とも前と変わらずに頑張ってやってくれています。財務内容は、船を1隻事故で失ったわけですから大変ではありますが、何とかやっています。遺族には労働協約通 り、5年分の給料を渡しました。しかし「第五十八寿和丸」に代わる船を造って事故前と同じ状態にしようと思っても、政策銀行から融資が思うように受けられず足踏み状態です。10月からは古船を利用する国の制度を使う予定ですが、2年間という期限付きです。生かさぬ ように殺さぬようにされている感じがして、仕方がありません。
 新しく船を造るには17億から18億円かかります。しかも年間12億円稼いでくれた船を事故でなくしてしまったわけですから、確かに足腰は弱っていると思います。だからこそ、生きていくうえで体力を以前の状態に戻したい。それには船を新しく造る必要があるんですが、思うように融資が受けられないのが現状です。いま、何とか融資の道を探っています。
 いま一番思っているのは「17人もの人が亡くなっている。その原因をわからないままにしていいのか」ということです。事故にあって乗組員を17人も亡くして、事故防止のマニュアルを作れないし、教訓も残せないんですから、忸怩たる思いが募ります。
 「のたうち回っている感じ」というのは、組織の壁の存在なんだと思います。海保も運輸安全委員会も政策銀行も、ひとりの人として接すると普段以上にやってもらっていると感じるんですが、組織になると違ってくる。この1年間、さまざまなことを学びました。



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