昭和34年の夏、小川小学校戸渡分校の6年生が本校の児童と一緒に、修学旅行で皇居を訪ねた。その美しいお堀端の堤に何か物足りなさを感じた子どもたちは、旅行から帰った後、先生と話し合った。
「戸渡にたくさん咲いているやまゆりを植えたらいい」
考えがまとまり、秋、子どもたちは学校が終わると毎日暗くなるまで、休日も返上してやまゆりの球根を探し、集まった約3000個の球根を皇居外苑保存協会の事務所に届けた。球根はお堀端の堤でなく吹上御苑に植えられ、翌年、美しく咲いたやまゆりの写
真が分校に送られてきた。
その翌年の梅雨の時期、皇太子と美智子さまご夫妻は小名浜で開かれる放魚祭にご出席されることになり、その際、戸渡分校によって子どもたちにやまゆりのお礼を言いたい、とおっしゃられた。しかし戸渡は遠く、交通
の便もよくないため、子どもたちが平駅でお出迎えし、ご夫妻からお言葉をかけられ、美智子さまの愛読書『新美南吉全集』をいただいた。
子どもたちは秋、東宮御所にやまゆりの球根を贈った。そのお礼にメタセコイアの苗木5本が分校に届いた。
その後、戸渡の山一面に咲いていたやまゆりは、イノシシに球根を食べられなどして激減した。戸渡分校は平成12年春に最後の卒業生を送り出し、15年に廃校になったが、地区の人々の努力で木造校舎と大きく育った3本のメタセコイアが残っている。ここ4、5年、校舎の周りでもやまゆりの花が再び、見られるようになった。
そして今年もメタセコイアのそばに、やまゆりの花が咲いた。「ゆりの王さま」と言われるやまゆりは花がとても大きく、香りも強い。時折の風に揺られながら凛と咲いて、木造校舎やメタセコイアとともに、やまゆりものがたりを語る。
その風景に、廃校後も木造校舎やメタセコイアが残って、ほんとうによかったと思う。やまゆりの花言葉は人生の楽しみ、威厳、尊厳。ほら、セミも鳴き始めた。
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