第426号

426号
2020年11月30日

 

縦63㎝、横39㎝

 いわき市平下高久の版画家の坂本勇さん(89)は夏に、新型コロナウイルス退治の版画を制作した。孫娘が福島市の小学校で養護教諭をしていて、励ましたいと思ったのがきっかけだった。
 「悪魔のコロナを、手洗いとマスクで追い払え!」と、逃げるコロナを表現した。完成後、孫娘が勤務する小学校と地元の小学校、かかわっている幼稚園の各クラスに1枚ずつ贈った。

 坂本さんが版画を作り始めたのは60年ほど前。油絵を学びたくて進んだ武蔵野美術学校で、時間講師の棟方志功の話を聞いてだった。美術学校の先生宅で見た浮世絵のコレクションにも魅了され、これが日本人の仕事と思った。
 乾坤妙韻(けんこんみょういん)という言葉がある。志功の人生訓で「天と地が互いに響き合う」の意。わかりやすく言えば、相手の身になって考えること。晩年の、わたしは生かされている、という言葉にも感動し、こころに残っている。
 同じ東北人というのもあって、志功は坂本さんをかわいがってくれた。「坂本君も出してみないか」と誘われ、第4回の日本版画会展に出品して初入選した。新舞子の松の作品だった。いま、坂本さんは日本版画会名誉会員。61回になる今年の版画会展はコロナの影響で中止になった。
 
 板と紙と墨で制作する版画。志功は「板画」と言った。坂本さんは下絵を描いて、それをトレーシングペーパーで写し、そのペーパーを裏にして今度は板に写し、それから彫り始める。だれが見てもすぐわかる作品を、いつも心がけている。
 若いころは京都や奈良に出かけて、寺社仏閣など日本的な作品を中心に手がけた。そのうち白水阿弥陀堂や塩屋埼灯台、波立海岸、勿来関など、いわきのさまざまな風景を制作するようになり、このところは題材に悩むという。それでも毎日、仕事場に入って手を動かしている。だから、手指がインクで汚れている。

 コロナ禍のなかで、出かけるのはトレーニングのデイサービスぐらい。あとは自宅周辺の散歩。「コロナは世界的な問題、早く収束するといい」。坂本さんは言う。


 特集 本丸跡の150年

 本丸跡の発掘調査が終了した。戊辰戦争のあと、あの場所はどんな変遷をたどったのか。安藤家の動向を中心に関係者から取材した。

真砂不動産代表 猪狩 達宏さんのはなし

 祖父・四郎さんの代から60年以上も本丸跡を所有し、管理し続けてきた立場で、磐城平城への思いを話してもらった。

飯野八幡宮宮司 飯野 光世さんのはなし

 飯野家ではある時期、磐城平城本丸御殿跡地を所有していたことがある。光世さんの父の盛男さん(故人)が購入した。その経緯などを光世さんに聞いた。

夏井 芳徳さんのはなし

 いわき市暮らしの伝承郷館長の夏井芳徳さんは11月23日、市学習プラザで平城本丸御殿の間取りが書かれた「陸奥州磐城平城内郭殿中図」を見ながら、戊辰戦争の時、平城本丸御殿のなかで何が起きたかを、その場に居合わせた人たちが書き残した記録から読み解いた。

日本考古学協会が磐城平城跡の保存について要望書を提出

 日本考古学協会の埋蔵文化財保護対策委員会の藤澤敦委員長(東北大学総合学術博物館教授)が11月20日、いわき市役所を訪れ、清水市長に本丸御殿遺構の保存について要望書を提出した。これほど良好な状態で確認された例は全国的にも少なく、極めて高い学術的な価値があるという。

 記事

新型コロナウイルスのこと(11)

 いわきでは11月、新規の感染者が11人確認され、4月に並ぶ最多の数となった。


新型コロナ禍のなかで

 山田さんは「しゃん亭」のオーナー。かつては平飲食業組合の会長だった。どんどん店が減っているなかで、何で勝負していくべきなのか。それは「あなたがいるから、あなたに会いに来たんです」という人対人の関係だという。


一期一会

ボタニカルアーティスト 志賀 美恵さん

『身近な植物と薬効 イラストとエッセイ』を出版した志賀美恵さん。震災後、避難した沖縄で植物画、さらにイギリスに留学してボタニカルアートを学んだ。その思いを紹介する。


わたしの本棚

諸橋元三郎-その人間と周辺
斎藤伊知郎編

「釜屋の番頭さん」と呼ばれた、大人・元三郎のこだわり、信条。


ギャラリーみてある記

草野心平と棟方志功~わだばゴッホになる
 ~12月20日 草野心平記念文学館

 同い年の心平と志功。その無垢な魂が寄り添い、響き合って詩画集『富士山』などが生まれた。

 連載

戸惑いと嘘(60) 内山田 康
時間(3)


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(23)スダジイ


ひとりぼっちのあいつ(4) 新妻 和之
山田先生、吾が次野先生


もりもりくん カタツムリの観察日記⑪ 松本 令子
タマゴ・タマゴ・タマゴ


ぼくの天文台 粥塚伯正余話(4)
「陽だまり」のこと

 7月21日に急逝した粥塚伯正さんが記した160回をたどりながら、その思いや周辺を「余話」として紹介する。

 

 コラム

ストリートオルガン(157) 大越章子
栄冠は君に輝く
たくさんの人が思い出を重ねる歌