第443号

443号
2021年8月15日
手島守之輔さんの作品「風」。天を仰ぐ人物をモチーフに幻想的な雰囲気を漂わせている

   

もっともっと描きたかった

 今年も8月6日が巡ってきた。広島平和記念公園の原爆死没者慰霊碑前で、平和記念式典が行われた。席上、松井一實・広島市長は原爆から3年後に広島を訪れたヘレン・ケラーの「1人でできることは多くないが、皆一緒にやれば多くのことを成し遂げられる」という言葉にふれ「為政者を選ぶ側の市民社会に平和を享受するための共通価値観が生まれ、核兵器はいらないという声が市民社会の総意になれば、核のない社会に向けての歩みは確実なものになっていく」と思いを述べた。唯一の被爆国でありながら核兵器禁止条約に参加していない日本に、早く締約国になって核保有国と非核保有国の橋渡し役をしっかり果たしてほしいと思ってのことだ。

 その2日前、郡山市立美術館で開かれている「無言館展」に出かけた。長野県上田市郊外にある戦没画学生の作品や資料を集めた美術館「無言館」の収蔵作品から約130点が展示されている。そのなかに「ふたりの被爆画学生」のコーナーがある。
 ふたりとは広島原爆でいのちを落とした手島守之輔さんと、長崎原爆で亡くなった伊藤守正さん。手島さんは1914年(大正3)3月、広島県竹原市の地主の長男に生まれ、34年(昭和9)、東京美術学校(現在の東京藝大)油画科に入学。在学中から新制作派協会展に出品し、39年(昭和14)に卒業した。結婚して東京・練馬のアトリエ村で妻と娘と暮らし絵を描いていたが、戦争が始まり、43年(昭和18)に故郷に戻り、中学校で図画を教えた。
 1945年(昭和20)8月1日、突然の臨時召集で広島第二部隊に所属、5日後、エノラ・ゲイが飛来し、広島に原爆が投下された。手島さんの部隊は爆心地からわずか1.1㎞にあった。翌日、父は約40km歩いて広島に来て、病院で瀕死の息子を見つけた。手島さんは終戦の翌日、31歳で亡くなった。
 一方、伊藤さんは1923年(大正11)8月、東京・赤羽生まれ。40年(昭和15)、東京美術学校工芸科図案部に入学したが、3年後、学徒出陣で応召。甲府、宮崎の部隊を経て、飛行機監視哨隊の一員として長崎県・野母崎に派遣され、45年(昭和20)8月9日の原爆投下の翌日、原爆の実態を知らないまま長崎市内に入って被爆した。翌年九月、結核のため亡くなった。23歳だった。

 郡山市立美術館の菅野洋人館長は、普段の美術展ではまず絵を見てほしいと言っているが、無言館展は作者の人生を知って、それから作品を見てほしいという。戦争によっていのちを絶たれ、画家への夢も閉ざされた画学生たちを思い、作品を見つめると無言の問いかけ、メッセージが伝わってくる。


 特集 遺された絵画からのメッセージ

 「無言館展――遺された絵画からのメッセージ」が8月29日まで、郡山市立美術館で開かれている。長野県上田市にある戦没画学生の絵画を集めた無言館に収蔵されている作品のなかから、66人の約130点が展示されている。その作品から戦争によっていのちを絶たれ、画家への夢も閉ざされた画学生たちの思いや問いかけなどメッセージが聞こえてくる。

吉田二三男さんの「風景」のはなし

郡山市立美術館館長 菅野 洋人さんのはなし

 記事

2021市長選 どうして市長選に出るのですか

 いわき市長選の告示まで2週間に迫り、来月5日には新市長が誕生する。現在のところ立候補を予定しているのは内田広之さん(49)、猪狩謙二さん(58)、現職の清水敏男さん(57)、宇佐美登さん(54)の4人。それぞれには「どうして市長選に出るのですか」などと率直に質問のぶつけ、その思いを語ってもらった。

  

内田 広之さん
議論を重ねて方向を決める

1972年(昭和47)、いわき市平下神谷生まれ。磐城高校から東北大教育学部に進み、文部省(現在の文部科学省)に入省。秋田県高校教育課長、岡山県教育次長、福島大事務局長などを歴任した。昨年、文部科学省を退官。

猪狩 謙二さん
地産地消を進めていく

1962年(昭和37)、常磐炭砿の長屋で生まれる。平工業高校電気科から常磐共同ガスに入社し、労働組合の執行委員長を経て2011年(平成23)から代表取締役社長。市長選出馬のため今年2月に退任。

清水 敏男さん
普通に暮らせるまちが一番

1963年(昭和38)、常磐湯本町生まれ。磐城高校から日大法学部を経て代議士秘書となり、いわき市議2期、福島県議4期、いわき市長2期。

宇佐美 登さん
最悪を想定して最善をつくす

1967年(昭和42)、東京都大田区生まれ。父が平馬目出身。早稲田大理工学部で医療工学を専攻。松下政経塾10期生。代議士秘書を経て26歳で衆議院議員に初当選(2期)。2013年(平成25)、2017年(平成29)に市長選に出たが、落選。

 


日々の本棚

 新装版『ふるさとは赤』
 三原由起子著
 (木阿弥書店)1650円

 連載

戸惑いと嘘(67) 内山田 康
太平洋(5)


阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(40)シラスゲ


ひとりぼっちのあいつ(21) 新妻 和之
タービトーブ 吾が小天地


時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(9)
其の八 黒門


DAY AFTER TOMORROW(222) 日比野 克彦
SDGsと芸術