465号 2022年7月15日 |

無関心ではすまされない
参議院選挙の投開票が行われた10日、締め切りが迫っていた。朝一番で投票を済ませ、取材と原稿書きに追われた。8日に安倍晋三元首相が、奈良市内での選挙運動中に凶弾で命を落とし、社会に衝撃が走った。「暴力に屈してはいけない。民主主義を守ろう」という空気が充満した。各社の論調は腰が引け、当たり障りのない内容のものが多かった。もちろん、山上徹也容疑者の行為は許されるものではないが、安倍さんと民主主義という言葉の並列化に違和感があったし、事件の背景が気になった。そして選挙は予想通り、自民党の圧勝に終わった。
このところ、いわき市平の下高久地区を歩いている。行政効率と予算確保のために市町村合併が加速するなか、頑なに合併しないで踏ん張っている町や村には、独自の「らしさ」(アイデンティティー)を守ろうとする気概がある。いわき市は合併してから54年も経つのだが、かろうじて地区の個性や特性が残っている。「大字誌のようなものを掘り起こしたい」と思っていたら、下高久地区の人たちが『まほろばの里 高久の歩き方』をまとめた。いい機会だと思って、取材を始めた。
下高久地区は古い歴史を持っていて、縄文中期から人が暮らしていた気配があり、古墳、飛鳥、奈良、平安、鎌倉時代の遺跡や文書も残っている。そして江戸時代、圧政に苦しむ農民たちが蜂起したという反骨の精神も脈々と息づいている。のどかな田園風景を眺めながら点在する遺跡群に足を運んで、いにしえに思いを馳せた。
下高久地区の神谷作に「十文字切り通し」がある。いつの時代か定かではないが、神谷作と上山口を結ぶ間道をつくる際に、地区民たちが人力で山を削ったと思われる。細い道を登っていくと、そこが十文字の切り通し。岩肌が露出している峠のてっぺんに立つととても静かで、タイムスリップでもして異次元に迷い込んだような感覚に襲われる。戊辰戦争のときに、新政府軍が磐城平城を攻めるために、この狭い山道を通ったとされている。下高久にはそんな、手つかずの歴史遺産がたくさん残っている。
参議院選挙と下高久歩き。意識のなかで現実と過去が交錯する。しかし、わたしたちは紛れもなく今を生きている。長期政権による腐敗や暴走にブレーキをかける意味からも、政権交代が可能な政治態勢を望んでいるのだが、そうはならない。今回も野党が一枚岩になれなかったばかりか、政権側にすり寄る動きもあった。そして一票を投じたい候補者が見当たらず、またも究極の選択を強いられた。
これから三年間、衆議院の解散がない限り、国政選挙は行われない。円安が進み、物価が高騰し、庶民の暮らしはますます苦しくなっていくだろう。そうしたなか、岸田政権は何をするのか。良識や道義に基づいた政治を行っていけるのかに、目を光らせたい。長く続いた安倍・菅政権との違いはどこなのか、憲法改正の動きは加速するのか、防衛問題はどう進んでいくのか、原発はどうなっていくのか、核に対する国の態度は…。
「面倒くさい。現状維持でいい」「無関心。政治には興味がないから」ではすまされない。次の世代への責任
特集 高久を歩く |
この春、いわき市平の下高久地区では『まほろばの里 高久の歩き方』を刊行した。縄文時代中期の貝塚や、後期の洞窟から人骨などが発掘されている地区で、平安時代の終わりには岩城氏の初代ともいわれている高久三郎忠衡が常陸国から移り住み、滑津川流域の開発を進めたという。地区の歴史や文化財、年中行事などがまとめられている『高久の歩き方』を持って現地を歩いてみた。
江戸時代前の高久――『高久を歩く』
江戸時代の高久――高久騒動と元文百姓一揆
戦争のはなし
廣田正さんのはなし
『まほろばの里 高久の歩き方』のはなし
高久ばなし

記事 |
まちがたり マツヤペット
店長の石井富雄さんが入院し、娘の真記子さんが仕事をやりくりして週3回開いている。この店には動物愛が育むコミュニケーションがある。

西尾正道さんのはなし ② 甲状腺がんについて
北海道がんセンター名誉院長の西尾正道さんの「汚染水の危険性を考える」と題した講演会の2回目。福島第一原発の事故後、行われている福島県民健康調査の子どもの甲状腺検査の結果について自身の考えを語った。

二〇二二参議院選 戦い終わって
連載 |
戸惑いと嘘(83) 内山田 康
見え隠れする傷跡たちの間で③
時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(31)
其の二十九 新川町
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(62)ヤナギタデ
DAY AFTER TOMORROW(233) 日比野 克彦
土地と種 種が土地を離れて土地のつながりを教えてくれる
ぼくの天文台 粥塚伯正余話(16=最終回)
夢で逢えたら
コラム |
ストリートオルガン(173) 大越 章子
映画館のはなし
岩波ホールがまいたエキプ・ド・キネマ