495号 2023年10月15日 |
湯本の駅前に大きな建物は似合わない
湯本駅前の再整備について、ずっと考えている。駅のすぐ近くに交流拠点施設を造るために区画整理をする。その建物に入るのは支所、公民館、図書館など老朽化した公共施設で、それをにぎわいの核にするのだという。どうしてもしっくりこない。湯本の良さが消え、ありきたりのまちになってしまうのではないか―。そんな心配が頭をもたげる。
湯本はそもそも温泉と炭鉱で栄えてきた。炭鉱がだめになって常磐ハワイアンセンター(現在のスパリゾートハワイアンズ)が生まれ、まちの温泉旅館と郊外レジャー施設のハワイアンズとが持ちつ持たれつの関係でやってきた。「さはこの湯」も「みゆきの湯」も、そうした流れのなかで整備された。そうした歴史が、湯本ならではの色を生んだ。
まずは温泉があり、その見せ方として大正ロマンや江戸情緒が加わり、駅前には彫刻が設置された。温泉保養地をめざして関係者がドイツにまで視察に行ったこともある。さらにハワイアンズに右ならえ、とばかり、温泉街にもフラが入ってきた。その根っこにあるのは、お気どりとは無縁の大衆性であり、庶民が主役の文化。しかも、すべてが中途半端のごじゃまぜ。その、何でもありのおおらかさが湯本らしさであり、魅力なのだろう。そうした雑ぱくさを生かすべきだ。
「歩いて楽しめるまち」として知られる黒磯(那須塩原市)を訪ねた。まず「1988 CAFÉ SHOZO」が起爆剤になり、若者たちが古い建物をリノベーションして、魅力のある店が自然発生的に増えていった。パン屋、パスタ屋、喫茶店…。それに刺激されるように既存の店も工夫を凝らすようになり、行政も常識を打ち破る個性的な図書館を、駅前に造った。隣接している那須町は温泉リゾート的な趣があり、古いものと新しいものが混在している。そうした雑多なものが響き合い、相乗効果になって那須エリアが変わり始めている。民間が主導して点が線になり、それを行政がバックアップして線が面になった。しかも細部にこだわりがある。それが原動力になっているのだと思う。
那須エリアをいわきに当てはめてみる。そこには城下町・平、漁業と港湾で栄えた小名浜、企業城下町で関東と境を接する勿来や植田、温泉を持つ湯本、炭鉱地帯だった内郷、漁業とセメントの四倉など、個性豊かな文化を育んでいた旧市町村がある。しかし車社会がまちの良さを奪い、震災・原発事故が追い打ちをかけてありきたりな日常さえも奪った。だからこそ、それぞれの良さを掘り起こして磨きをかける必要がある。しかし市が進めている公共施設の総合管理計画には無味乾燥な均一化の思想が見え隠れしていて、ますます、まちの個性が失われていく気がしてならない。
湯本の再整備に関して言えば、駅前の大きな建物は、まちに合わない。願わくは路地をつないで楽しく歩ける仕掛けがほしい。温泉まちの空気を生かしながら、そこに住んでいる人たちが誇りとこだわりを持ってまちをつくっていく。みんなの思いを行政が吸い上げてバックアップしていく。そのためには、より多くの人が参加できる開かれた場での熱い議論が必要だった。でも、まだ間に合う。一人でも多くの人が声を上げよう。口をつぐんでいたら、敷かれたレールのままの、どこにでもあるつまらないまちになってしまう。
特集 小さな旅 黒磯・那須湯本温泉 |
秋を探しに黒磯と那須湯本温泉周辺に出かけた。黒磯駅前には那須塩原市の個性的な図書館「みるる」があり、その周辺には「1988 CAFE SHOZO」など魅力一杯のパン屋さんや古道具屋さんなどがあり、町歩きをすると楽しい。午後は共同浴場「鹿の湯」や那須温泉神社などを巡った。魅力にあふれる那須エリアを紹介する。
新しいものと古いものが混在する黒磯
「図書館 みるる」のこと
那須湯もの温泉界隈をめぐる
芭蕉と殺生石
遊行柳のこと
記事 |
ALPS処理水 海洋放出をめぐって
民俗学者 川島秀一さんのはなし
踊り続けた79年の生涯
鎮魂歌 小野恵美子さん 享年79
シネマ帖 こんにちは、母さん
連載 |
阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(88)キリ
木漏れ日随想(6)佐藤 晟雄
我が心の歌「荒城の月」(青葉城)
DAY AFTER TOMORROW(238) 日比野 克彦
アニメーション制作
ネット上で高校生が発信する60種類の表現
コラム |
ストリートオルガン(183) 大越 章子
土屋恵さんのこと
紀志子さんを思って曲にした自作を演奏