第497号

497号
2023年11月15日

  いま考えれば、私もよくあんなことをやったなぁと思う

 

 久之浜港に向かって波立海岸沿いの道路を車で走っていた時、ふと「田之網の新妻完之さんは、海洋放出をどう考えているのだろう」と思い、自宅に立ち寄った。
 田之網の新妻完之さんは、震災・原発事故から数週間が経ったころ、当時、国道6号だった波立海岸沿いの道路に「原発 どこかえ(へ)もっていけ」などと書いた4枚の畳を立てた。わき上がるやるせない怒りを、津波でぬれて使えなくなった畳にぶつけたという。その畳は2週間ほどで撤去されてしまったが、あのころの浜通り、そして福島県に住む人々の気持ちをストレートに代弁し、多くの共感を得た。
 4年前、畳を立てたのが新妻さんとわかり、震災直後の状況や思いを取材した。

 玄関に出てきた新妻さんは初め、要領を得ないようだったが、「原発 どこかえ(へ)もっていけ」の畳の話をすると、記憶がよみがえり「新聞に書いてもらって、ちゃんととってあります」と笑った。
 12年を経たいまだから言えるのだろう。あの4枚の畳の文字は、たまたま新妻さん宅を訪れた市内のある有名な書道の先生に、ものすごく太い筆で書いてもらったという。それを7人の自衛隊員の手を借りて、田之網集会所の敷地の門柱に2枚ずつ、針金でくくりつけた。
 海洋放出について尋ねると「流す前は、流してほしくないと思っていたけれど、実際、われわれが反対したってどうしようもないものね。でも、その前に現場は垂れ流ししていたと思うよ」と話した。久之浜で生まれ育ち、暮らしているので、なければご飯のおかずがないように感じるほど、魚は昔から生活と密着していて、食事には不可欠だと言う。
 震災以降、集落の人口は半分ほどに減り、さらに病気になって亡くなったり、子どもの家に越したりして、友達が少なって寂しいという。そして、あらためて12年前を振り返り「いま考えれば、私もよくあんなことをやったなぁと思う」と、しみじみ語った。
 ただ「あのときは家もやられちゃったし、挙げ句、原発(事故)で逃げ回ったりしたから、私も腹が立ったのよ」の言葉はやっぱり熱く、力がこもっていた。

 


 特集 民藝 MINGEI

いわき市立美術館で「民藝 MINGEI」展が12月17日まで拓かれている。いまから100年前、手仕事の美に着目した柳宗悦。「民藝とは何か」を考えながら、柳の人生、いわきの陶芸作家で「民藝そのもの」ともいえる古民家暮らしをしている「新谷辰夫さん」の思いを紹介する。

柳宗悦の人生
手仕事の美に光を当てる

いわきの民藝 新谷窯の新谷辰夫さん
民藝そのものの古民家暮らし

ギャラリー見てある記
渋くて居心地の良い空間

『手仕事の日本』のこと

 記事

ALPS処理水 海洋放出をめぐって

放出から3カ月 港を歩く
放出されて複雑な気持ち 何も言えない

トリチウムなどを含む汚染水が海洋放出から、もうすぐ3カ月。あれほど騒いでいた報道各社は、忘れ去ったように静かだ。いわきの海岸線を歩き、釣り人や仲買人などから話を聞いた。
ALPS処理水差し止め訴訟の第2次提訴
11月9日に212人が提訴。9月8日の第一陣と合わせて363人になった。


止まったままの「じゃんがら・からくり時計」

いわき駅前大通に設置されている「じゃんがら・からくり時計」が2ヶ月まえから止まったままになっている。メンテナンスのための予算がオーバーし、直せないという。



食のはなし 十一そばの冷凍生めん
無農薬、無化学にこだわる
宮城蔵王の麓にある七日原高原で育てたそばを石臼で製粉し、冷凍そばにした冷凍生めんを販売している「七日原そば販売所」(小名浜西君ケ塚町20-1)のはなし

彫刻追悼 野村たかあきさん
彫刻家、版画家、絵本作家として幅広く活躍していた野村さんとの思い出。
群馬県立女子大非常勤講師 小野浩

 


日々の本棚

『山の本棚』
 池内紀著
 山と渓谷社・1980円+税

 連載

阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(90)カナムグラ



木漏れ日随想(8)佐藤 晟雄
私の大学図書館


DAY AFTER TOMORROW(249) 日比野 克彦
芸術未来劇場
アートの価値を新たに創造して社会的課題に挑む

 

 コラム

ストリートオルガン(184) 大越 章子

花巻の秋の旅
あの時のオレンジ色の風景と桃色の空