第505号

505号
2024年3月15日
3月2日にいわきアリオスの中劇場で開かれた「かたりつぎ」

       かたりつぐこと

 今年も3月11日を迎えた。あの日から13年が過ぎた。この月日を思うと、小学生以下の子どもは東日本大震災を体験していないし、中学生以下はほぼ震災の記憶がないだろう。いつごろからか、震災をかたりつぐ、と言われるようになった。
 東北大学災害科学国際研究所では「みちのく震録伝」と題し、震災の被災者や支援者の証言を集め、後世に語りつぐプロジェクトに取り組んでいる。阪神淡路大震災以降、神戸で開催されてきた「竹下景子~詩の朗読と音楽」も引き継ぎ、2012年から「かたりつぎ」というタイトルで被災三県のどこかで開き、証言を伝えている。
 今年の「かたりつぎ」は3月2日、いわきアリオスの中劇場で開かれた。俳優の竹下景子さんが5人の証言を朗読し、作曲家でピアニストの谷川賢作さんが津波に襲われた豊間中学校のグランドピアノ「奇跡のピアノ」を弾いて、歌も歌った。
 谷川さんがステージで話していたように、竹下さんの朗読は言葉に力があって、自身の存在がだんだん消え、語られる内容が聞き手にすっと入ってくる。谷川さんのピアノは、あの時の記憶を甦らせるとともに、何とも言えないやさしさに包まれる。竹下さんは「奇跡のピアノそのものが当時の記憶を語っている」とも話していた。

 竹下さんと谷川さんの「かたりつぎ」を聴いたあと、自室の書棚から長田弘の詩集『黙されたことば』を取り出し、はじめのページを開いた。
星があった。光があった。
空があり、深い闇があった。
終わりなきものがあった。
水、そして、岩があり、
見えないもの、大気があった。

雲の下に、緑の樹があった。
樹の下に、息するものらがいた。
息するものらは、心をもち、
生きるものは死ぬことを知った。
一滴の涙から、ことばがそだった。

こうして、われわれの物語が育った。
土とともに。微生物とともに。
人間とは何だろうかという問いとともに。
沈黙があった。
宇宙のすみっこに。

 かたりつぎは、あの日に起きたことだけを未来に語りつぐのではない。あの日にはわからなかったことも語りつぐ。福島第一原発の事故はなおさらで、いつ終わりを迎えるのかわからないから、現在進行形でその時々、生き証人が語りついでいかなければならない。
 もちろん的確な、わかりやすい言葉で。表面を取り繕うような言葉や、聞き心地がいいだけの言葉は怪しい雰囲気を醸し出し、たちまちメッキがはがれる。強いられた言葉だってナンセンスだ。
 考え、こころからわき上がってきた自分の言葉で飾らず語り、決して語らない人たちの語らない言葉にも耳をかたむける。そうして、未来のたいせつな道標になるよう語りつぐ。


 特集 あれから13年

 3.11から13年が経った。津波に襲われ、多くの犠牲者を出した久之浜、四倉、薄磯、豊間をめぐり、それぞれの3.11といまを聞いた。

フタバヤ洋品店 安類浩司さんのはなし
まちが人工的になり人も疎遠に

マサミ理容 遠藤成朗さんのはなし
人の関わり愛が薄い気がしている

押田水産 押田光一さんのはなし
震災後は仕入れが変わった

カフェ「サーフィン」 鈴木富子さんのはなし
周りに多くの家が建ったけれど

着物と和裂「ほうせん」 四家和子さんのはなし
豊間の人口が増えてきた

続 豊間中学校のピアノのはなし
3月2日にいわきアリオスの中劇場で開かれた「かたりつぎ」で谷川賢作さんが、津波に遭った豊間中体育館のグランドピアノを弾いた。いわゆる「奇跡のピアノ」。再生したのがいわきの遠藤洋さん(65)で、昨年11月には大修理が行われた。

フタバヤ用品店の安類さん

 記事

ALPS処理汚染水差止訴訟

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90km離れた大洗から買い付け

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支援に駆けつけた女優の斎藤とも子さんのはなし
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 連載

阿武隈山地の万葉植物 湯澤 陽一
(98)イネ

木漏れ日随想(14)佐藤 晟雄
思い出の神田界隈と山の上ホテル



DAY AFTER TOMORROW(253) 日比野 克彦

ルドンとコラボ
フォンフロワッド修道院での滞在制作

 

 コラム

ストリートオルガン(188) 大越 章子

さようなら、恵美子さん
踊ることが生きること、心にいつも炭砿があった