第517号

517号
2024年9月15日

new born 荒井良二                    いつも しらない ところへ 旅する気分だった

 

 「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」が9月7日から、いわき市立美術館で開かれている(10月20日まで)。初日の7日、荒井さんは美術館2階のロビーでライブペインディングをした。ぐるり四方に張り巡らされた幅90㎝、長さ17mほどの板にアクリル絵具を使って手で描き、その周りを老若男女、たくさんのギャラリーが取り囲んだ。

 「これから描きますけれど、どんどん話しかけて聞いてください」。午後2時過ぎ、荒井さんはそう言って、白絵の具を刷毛につけて描き始めた。みんなの要望に応えて、こけしやウサギ、猫、アメンボを描き、そのうちに刷毛を置いて、手に絵の具をつけてぐるぐるすーっと塗りつけた。
 何を描くかなんて考えていない。むしろ何を描くかに集中する自分自身を消したくて、みんなに質問してもらい、それに答えながら手だけ動かす。そうすることが好きという。絵本の絵も大まかなところまでは手を使う。ワークショップでは、みんなで手をつないで歌い、足で描いたこともある。
 ひとまわりして板に白をつけたら、ほかの色で描いていく。いろいろな色を置いた段ボールパレットを手に、思いつくまま描いたらばーっと消して、また描いて消して。いったいどんな絵ができるんだろう、と人々は興味津々。それを裏切るように色を重ね、少しずつ荒井さんの色彩の絵ができあがってくる。

 みんなの質問への荒井さんの話に耳を傾けていると、その生活が垣間見える。サッカーボールを背負い、7分歩いてアトリエへ向かう。荷物を置いたら公園に行き、ボールを蹴る。それからスーパーマーケットで食材を選び、アトリエで昼ご飯を作る。洗濯機も回して仕事着を洗う。じっとしているのは苦手だから走りにも行く。
 だれでもそうかもしれないが、一日のうちで子どもに戻る瞬間がある。子どもが伸び縮みしている、そういう感じの日々という。サッカーボールがあると落ち着くから、家のなかにごろごろあるらしい。それに絵の具とギターが視野にあれば、しあわせを感じる。
 自分のことより、世界の出来事が気になる。1日の終わり、寝る前に毎日15分、模写している。自分のことを忘れて、だれかの視点に近づいて寝るのが気持ちいいらしい。

 張り巡らせた板の周りをどれくらい回っただろう。絵はかなりできてきたようにも見えるし、まだまだ手を加えないといけないところがあるようにも思える。いつの間にか時計は終了予定の午後3時を回り、そうして5時10分を過ぎた辺りから、時々カウントダウンが始まった。5時半、ペインティングは終了。最後まで残っていた人々たちから拍手がわき起こった。
 この間、荒井さんはずっと立って描き続けていたけれど「全然、あきない。何時間でも描いていられる。本人はしあわせなんです」と言って、笑顔を見せた。翌日、絵にタイトルの「new born」とサインと日付を入れた。


 特集 隣町のできごと

いわきにとっては近くて遠い町、茨城県北茨城市。その大津漁協で長年にわたって不正が行われてた。それを白日の下にさらし、解雇されたのが永山孝生さん(43)。いまも闘い続けている永山さんから話を聞いた。

勤めていた漁協が不正をしていた
永山さんのこと
告白のきっかけ
四面楚歌
「週刊文春」の報道
前専務の逮捕

不正が次々と明るみに
「解雇は無効」を勝ち取る
永山さんをめぐる出来事

 記事

まちがたり 市川パン

注文が次第に減って操業88年で灯火を消す
平で昭和10年からパンを作りはじめ、多くの人に親しまれてきた市川パンが店を閉める。高校などで昼休みに販売し、名物のデンマークパンやちくわパンなど老舗ならではの昔気質のこだわりがが愛されてきた。そのルーツや閉めざるを得なくなった背景などを取材した。

市議選を振り返る

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PERSONA  安藤 沙羅 さん(日本画家・30歳)

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県議の活動を始めて8カ月になった山口洋太さん
 連載

踊るこころものがたり4
オイスカ浜松国際高校のフラダンス部
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戦争は残酷な悲劇



DAY AFTER TOMORROW(259) 日比野 克彦

気もそぞろ
ワールドカップ最終予選の初戦と重なった対談

 コラム

ストリートオルガン(194) 大越 章子

ア・ターブルのはなし
幸せは自分の気持ちが満ち足りているかどうか