525号 2025年1月15日 |

言葉の力を信じながら。
2025年、乙巳の年が明けた。いわきでの初日の出は水平線に雲がかかっていたとはいえ、勢いよく空を焼いた。寒風にさらされ、すがすがしい年の始まりになった。
詩人で評論家の大岡信は「日本近代詩の風景」のなかで、「時代のうねり、激動の中では、詩人や文学者が手にしている『言葉』という武器は、まことにみすぼらしく無力なもののように見える。けれども、わたしは人類にとって、究極的にその救いとも慰めともなりうるもの、新しい明日への希望と活力を与えてくれるものが、言葉の力にあるという信念を放棄することはできない」と書いた。
その文章にふれ、言葉を活字に載せて思いを伝える仕事をしている端くれとして、新年早々、眠っていた精神をたたき起こされた。
今年は終戦・原爆投下から80年、阪神淡路大震災から30年にあたる。さらに東日本大震災・原発事故から14年、能登半島沖地震から1年がたった。
「天災は忘れたころにやってくる」とは物理学者で随筆家、寺田寅彦の有名な警句だが、寅彦は1923年(大正12)に起こった関東大震災の調査に当たり、その著書『天災と国防』のなかで文明が進むほど自然災害の被害が増大することを指摘し、普段の備えがいかに大事かを説いた。とはいえ、時が過ぎると悲惨な記憶は風化し、また同じことが繰り返される。だからそれぞれが「決して忘れない」ことを胸に刻み、説得力のある言葉で一人でも多くの人に伝え続けなければならないのだと思う。
2011年3月11日午後2時46分に発生したマグニチュード9・0の地震と津波、そして原発事故を体験した身としては、寄せては返すようなジレンマに苛まれている。能登ではあの時と同じように避難所や仮設住宅の問題が噴出し、関連死が増え続けている。国や自治体はなぜ神戸や福島に学べないのか。
原発の廃炉、それにともなう中間貯蔵施設や海洋放出のやり方についても首をかしげることが多い。国は原発再稼働に舵を切り、福島県はいま、「これでもか」というほど再生エネルギーを推進している。その結果、いわきの山は太陽光パネルに被われ、風力発電の巨大な羽根が遠くからも見えようになった。しかもその電気は既存の送電線を使って関東方面に送られている。原発事故前と何も変わっていないのだ。
あの事故のあと、放射能が拡散した場合の途方もないリスクに身震いをした。しかし、国は、電通などの広告代理店に巨額な予算を投入して安全キャンペーンを繰り広げて放射能に対する心配をタブー化、「風評被害」として矮小化してきた。そして「風評加害者」という言葉まで生まれた。
新聞記者はよく、「半歩先を見て記事を書け」と言われる。それは、発表にとらわれ流されると、事象を追うだけのトピック新聞になってしまう。過去に学びながら今行われていることが先行きどうなるのかを冷静に考え、未来世代に向けて記事を書け、ということなのだと思う。
確かに大岡信が言うように、多様なメディアが現れて平気でフェイクニュースも飛び交う時代にあって、記者が手にしている「言葉」という武器はみすぼらしく無力なのかもしれない。しかし、例えそれが砂漠にジョーロで水を注ぐような途方もない作業でも、さまざまな意図や策略に抗い丁寧に真実を伝え続ければ、かすかにでも希望が生まれて未来につながるかも知れない。そう信じたい。
特集 70年前の地図2 湯本を歩く |
昭和30年に発行された「湯本商工案内図」を餅ながら表町通りなどを歩いて地元の人に話を聞く特集の第二弾。湯本活版所の藤本紀子さん(80)、正木屋材木店の大平喜一さん(88)、元野村医院の野村孝子さん(97)、隆一さん(71)親子に話を聞いた。
湯本活版所 藤本紀子さんのはなし
炭礦の仕事だけでいっぱいだった
正木屋材木店 大平喜一さんのはなし
温泉神社の下を軽便鉄道が走っていた
野村孝子さんのはなし
戦禍で母と妹を失い湯本へ
野村隆一さんのはなし
家の周りだけで十分用が足りた

記事 |
中間貯蔵施設のこと
30年中間貯蔵施設地権者会会長 門馬好春さんのはなし
地域や国民の安心安全を最優先に考えて
中間貯蔵施設に汚染土などが運び込まれて3月で10年。「30年中間貯蔵施設地権者会」会長の門馬好春さんに故郷への思いや中間貯蔵施設に対する考えを聞いた。
2025 新春記者会見
公約に掲げていることを実現する集大成の年
わたしの本棚
竹西寛子著『松尾芭蕉集 与謝蕪村集』
時代を超え、蕉風俳諧の眼で四季に浸る

連載 |
92歳 要介護5
認知症の母を介護して思うこと ① 松山良子
認知症は悪化もするし回復もする
敵を知り己を知れば百戦危うからず
阿武隈山地の絶滅危惧種 ② 湯澤陽一
デンジソウ シダ類 絶滅
木漏れ日随想(34)佐藤 晟雄
わたしが思う水戸学
DAY AFTER TOMORROW(263) 日比野 克彦
アートという船
人間にとっての豊かさは「定量化された価値」でなく「気持ち」
コラム |
ストリートオルガン(197) 大越 章子
スローダウン
取り巻く時間の流れを意識して変える