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母


 天平には母が2人いる。生みの母と育ての母だ。実母のトメヨは6歳の時に肺結核で亡くし、10歳の時に新しい母・なおと対面 している。天平は、この継母・なおの影響を強く受け、自らの感性を磨いて行ったのだった。

 なおは佐賀県生まれ。鍋島藩にゆかりのある家柄に生まれ、娘時代には鍋島本家で厳しいしつけを受けた。天平の父・馨と知り合ったころは、料亭の女将をしており、歌舞伎や能を好み、囲碁の相手もできる教養豊かな女性だった。

 なおについてのエピソードは限りなく多い。
いつも中央公論を読んでいたこと、人を叱るときには孔子や孟子の話をを引いたこと。さらに、浪費癖が激しく、値札を見ないで欲しいものをどんどん買ってしまううえに、ワイシャツはダース買い、足袋も特注品しか履かないほど。借金をしに行くのにハイヤーを使うようなとんちんかんのところもあった。

 なおは昭和24年9月1日、上小川で71歳の生涯を閉じた。そして天平は初七日が過ぎるとすぐ、上小川を離れ東京へ向かう。それはまるで、「もう上小川にはいる必要がないんだ」とでもいうような突然の上京だったという。

 天平はその死をきっかけに、より求道的な道を突き進んでいくことになる。東京に出て、戦後の薄命な時代に落胆し、自らの道を極めるために、比叡山へ向かう。
 「人を離れ厳格に身をこらしめて、その寂しさから一層澄み透った内の詩を作るために…」






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