第439号

439号
2021年6月15日
「草野心平のオノマトペ」展は6月27日まで、いわき市立草野心平記念文学館で開かれている

   

ちるちるおちるまひおちるまひおちる

 6月になって、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために休館していた、いわき市の公共施設が開館し、また少し日常が戻ってきた。気になっていた草野心平のオノマトペをテーマにした企画展を見たくて、心平記念文学館に出かけた。
 オノマトペとは、ざあざあ、わんわんなど、ものの音や声などをまねた擬音語と、きらきら、にこにこなど状態を表した擬態語をさす言葉で、心平はオノマトペを多用する詩人の1人に挙げられている。心平自身はオノマトペを「擬音」と言い、意識して使ったのではなく、できあがったらそう表現していたに過ぎなかったようだが、擬音は心平の詩を広く深く、立ち上がらせる。
 るるり りりり(「おれも眠らう」)、るるるるるるるるるるるるるるるるるるるる(「生殖 Ⅰ」)、ぎゃわろっぎやわろっぎやわろろろろりっ(「誕生祭」)。「第八月満月の夜の満潮時の歓喜の歌」は目にしただけで大合唱が聞こえてくる。
 
 ぐりりににぐりりににぐりりにに
 るるるるるるるるるるるるるるる
 ぎやッぎやッぎやッぎやッぎやッ
 ぎやるるろぎやるるろぎやるるろ
 げぶららららららげぶららららら
 りりりりりりりりりりりりりりり
 ぎやッぎやッぎやッぎやッぎやッ
 んんんげげげんんんげげげんんん
 ごりらごりらごりらごりらごりら
 ぐりけっぷぐりけっぷぐりけっぷ
 わひわひわひわひどどどわひわひ
 げぶららららららげぶららららら
 ぐりっくぐりっくいいいいいいい
 がりぎりがりぎりわひわひわひ
 
 かえるの詩だけではない。轟轟轟轟(「日食」)や、づづづづ わーる づづづん づわーる ぐんうん うわーる(「夜の海」)、わんわんわんわん がわんわんわん ごんごんごんごん ごごんごんごん ううんうんううんうん うんうんうんうん(「阿蘇山」)、玄玄(「玄玄天」)などもあって、いとも簡単にはるか時空を越えてしまう。
 「擬音は音の模写でも再現でもない。音を持たない対象からも擬音が生まれる程、それは心象の音性的表現なのである。そしてそれが的確に定着された時、擬音は永く生きてゆく可能性を持つ」と、心平は「生きてゆく擬音」で書いている。心平の擬音は真実が音に化けて表現されていて、音だけでなく風情や思想も含包するという。だからこそ心平ならではの独創的な表現がされ、辞書にも載っていない。

 展示室に「滝桜」という詩が紹介されていた。

 そよ風にのり。
 はながちる。
 はながちる。
 ちるちるおちるまひおちるまひおちる。
 (以下省略)
  
 これから、さくらの花びらが舞う季節にはきっと、ちるちるおちるまひおちるまひおちる、と口ずさむだろう。


 特集 コロナ禍でもできること

 コロナ禍のなかで、どう生きていくのか―。ワクチンの接種が始まったとはいえ先が見えないなかで、きちんと向き合って対策をとりながら、できることをしている人たちもいる。さまざまな立場の人たちに話を聞き、コロナ禍でどう生きていくのかのヒントをもらった。


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香りと疫病


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生きてる擬音
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連載再開
戸惑いと嘘(63) 内山田 康
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時空さんぽ 再び 〜磐城平城を訪ねて(5)
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起きたことを報じるだけでない記者の視点